スイートリトルライズ  


 2012.5.20   仲むつまじい夫婦のはずが… 【スイートリトルライズ】

                      評価:3
江國香織おすすめランキング

■ヒトコト感想

表面的には何の不満もない、仲むつまじい夫婦。そんな二人が、お互いに秘密をもち、夫婦として暮らしていく。本作では男女両方の目線で交互に物語が語られている。相手に対するちょっとした不満や、相手を必要とする理由など、なんら問題のない夫婦のように思えてくる。それが、ちょっとした出会いから、密かに情事を繰り返す相手をもつことになる。夫婦の生活描写というのは、もしかしたら作者の日常に近いのかもしれない。ごくありふれた夫婦関係のひとつなのかもしれないが、お互いの不満というのは、耳がいたくなる場面でもある。既婚者と独身者では、感じ方が大きく分かれるだろう。男目線で読むと、なんだか気詰まりする夫婦関係だと思ってしまう。

■ストーリー

この日常に不満はない、と瑠璃子は思う。淋しさは人間の抱える根元的なもので、自分一人で対処するべきで、誰かに―たとえ夫でも、救ってもらえる類のものではない。瑠璃子と二歳下の夫、総。一緒に眠って、一緒に起きる。どこかにでかけてもまた一緒に帰る家。そこには、甘く小さな嘘がある。夫(妻)だけを愛せたらいいのに―。

■感想
ごく普通の、何の問題もない夫婦関係であったとしても、そこには何かしらの歪がある。本作では瑠璃子と聡という夫婦の日常が描かれており、そこに割り込む形で、それぞれ別の異性の存在が明らかとなる。本作を読んでまず感じたのは、作者の日常生活に近いのだろうか?ということだった。エッセイなどで読む作者の夫婦関係というのは、もしかしたら本作に近いのかもしれない。瑠璃子はノンビリと生活しつつも、聡が仕事へ行ってしまうことが悲しみとなる。安定して落ち着いた生活の中に、作者なりの主張を感じてしまった。

どうしても聡目線で読んでしまう。部屋に鍵をかけてゲームに熱中するなんてことはないが、奥さんの一日の報告を少しわずらわしく感じるのは、どこの旦那もそうだろう。的確に男の心理状態を表現しているだけに、そこを鋭く突いてこられると、しんどく感じてしまう。お互い、相手がどう感じているのかわかっていたとしても、そこをあからさまに指摘しないのが、夫婦の優しさではないだろうか。本作では、たまに爆弾のように瑠璃子が聡に対して強烈な一言を見舞うのだが、それがあまりに強烈すぎて心が辛くなる。

作者の男を観察する目は鋭すぎる。物語の根底には、浮気から本気へ変わっていく心を感じつつも、夫婦として相手の重要さをわかっている二人の苦悩が描かれている。物語に流れるゆっくりとした時間と落ち着いた雰囲気。その中で、不倫しつつも、夫婦の絆を大切にしようとする心というのが、そこまではっきりとは理解できなかった。ドロドロとした不倫の泥沼ではない。どこかサラリとしていながらも、釈然としない思いを抱えたまま夫婦生活を送っているように思えた。

本作のような夫婦関係が当たり前だとは思わないが、男からすると、痛いところを突かれたという感じだ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp