ストーリー・セラー  


 2013.2.13     美しい夫婦愛の中に… 【ストーリー・セラー】

                      評価:3
有川浩おすすめランキング

■ヒトコト感想

小説家の女性と、それを支える夫の話。女性自身が病におかされ死んでいく話と、夫が死んでいく話の2パターンあるのだが、どちらも美しい夫婦愛と共に、女の他者に対する正論を突きつめた怒りというのを強く感じてしまう。作者の作品は、作中でも語られているように理屈っぽい。その中で、他者に対する怒りの気持ちというのが強烈だ。理路整然と正論をまくしたて、相手に有無を言わさぬ勢いで、相手をコテンパンに叩きのめす。この力が、あまりに辛らつな攻撃のため、主役の女性作家に対してかなりきつい印象をもってしまう。言いたいことは正しいのかもしれないが、攻撃の仕方がえげつない。死が目前に迫った美しい夫婦愛よりも、攻撃ばかりが印象に残っている。

■ストーリー

このままずっと小説を書き続けるか、あるいは……。小説家と、彼女を支える夫を突然襲った、あまりにも過酷な運命。極限の選択を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた――。「Story Seller」に発表された一編に、単行本のために書き下ろされた新たな一篇を加えて贈る完全版!

■感想
小説を書き続けることで死が近づく。かなり過酷な状況からスタートする物語は、出会いから結婚するまでを描いている。まるで作者の実体験?のように、隠れて小説を描いていた女性が、偶然作品を読まれたことで二人の仲が進展する。出会いから恋愛に発展するまでは、いつも以上に理屈が優先し、男女共に正論をぶつけあう。なんだかここまでガチガチに良い人で、良い考えで、お互いを尊重しあう関係というのは、逆に不自然に感じてしまう。しあわせな関係が崩れるのは、突然おとずれた診断結果からなのだが…。病気までもがおあつらえ向きすぎている。

もうひとつの話は、夫に死が迫る話だ。これも、出会いから始まり、深い関係になるまでをニヤニヤしながら読むことになるだろう。ただ、相変わらずの理屈っぽさと、綺麗すぎる男女関係が目に付いてしまう。さらには、夫が死ぬと分かってからも、ひたすら逆夢を信じ続ける健気な女。夫は合理的な考えをしつつも、妻に甘えようとする。妻は、二人の関係を大事にしようとする。死が迫った悲壮感や、二人だけの時間が濃密に描かれているわけではない。なぜか、終始綺麗で、後を濁さないさっぱりとした夫婦関係のように感じてしまう。

二つの物語とも、他者に対する怒りは強い。もとはといえば、その他者自身が悪いのだが、それに対して主人公がくりだす攻撃というのは、強烈なものがある。理路整然と反論するのだが、そこまで言う?と思う場面が多々ある。特にいくら辛いあつかいを受けたからといって、身内に対しての攻撃というのが想像以上に激しい。その結果、主役の女性作家が、かなりエキセントリックで性格がきついように感じてしまう。綺麗な夫婦関係の中に隠れがちだが、この攻撃性はちょっと異常では?と思えてしまう。

理路整然と正論をぶつけ、相手を打ち負かすのも良いのかもしれないが、ちょっとした妥協というのも必要なように感じた。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp