SOSの猿  


 2011.2.15  感情のないキャラクターたち 【SOSの猿】

                      評価:3
伊坂幸太郎ランキング

■ヒトコト感想
作者の経歴が本作に活かされているのだろうか。元ソフトウェア開発者だけに、品質管理やソフトバグについて作者の思いが語られている。それ以外にも、証券会社の誤発注問題など、現実に起こった出来事をベースとして、物語を構築している。なんとなく、読者を煙に巻くような雰囲気をだしつつ、何か教訓じみたことも表現しているのか。いろいろと仕掛けがあるのはわかるが、それほど劇的なインパクトを与えるようなものではない。序盤などは油断すると何がなんだかわからなくなる可能性がある。誤発注やソフトウェア開発についてそれなりに知識があるので、なんとかついていけたが、何の事前知識がないとなると、かなり辛いかもしれない。

■ストーリー

ひきこもり青年の「悪魔祓い」を頼まれた男と、一瞬にして三〇〇億円の損失を出した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空―救いの物語をつくるのは、彼ら。

■感想
悪魔祓いを依頼された家電販売店員の遠藤と、ソフトウェアの品質管理者の五十嵐。この二人が本作のメインだ。ただ、物語は入り組んでおり最初はなんのことだかわからない。まったく繋がりのない二つの物語が平行に進んでいるようにすら思えてくる。それが中盤をすぎるあたりから、やっと意味がわかってくると、物語の進む方向がはっきりしてくる。しかし、最後までなんだかよくわからなかったのは孫悟空のくだりだ。それが果たして必要だったのか。物語としては重要視されているが、なくても別に良いのではないかと思えてしょうがなかった。

証券会社の株誤発注というのがかなり大きく扱われている。作中ではそれなりに重要なのだろうが、キャラクターが原因を探るシーンは思わずイラっとしてしまった。知的ではあるが感情がなく、淡々と目的だけを達成しようとする。バグの原因はなにか。誤発注の原因はなにか。この手の問いは当たり前のようにアチコチでやられていると思うが、間違いなく本作の五十嵐のような人物が存在したら、すぐに喧嘩になってしまうだろう。作者が描く、人間味のないキャラクターは面白いが、感情移入はしにくい。

ひきこもり青年の妄想を解決する作品かと思いきや、別の意味がありそうでよくわからない。時系列に並んでいるわけではないので、しっかりと頭の中を整理しないと混乱する可能性がある。登場人物たちの感情がいまいち読めないため、なんに対しても大きな驚きもなく、淡々と物事を進めているように感じてしまう。これほど余計なことを考えず、やることだけをやれる性格であれば、どれほど楽だろうと常に思いながら読んでいた。物語全体に現実感がなく、キャラクターも真実味がない。これが作者の特徴なのだろうが…。

キャラクターの特殊さは群を抜いている。




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