ソロモンの犬  


 2011.6.2  シックスセンス的か? 【ソロモンの犬】

                      評価:3
道尾秀介ランキング

■ヒトコト感想

大学生のちょっとした青春物語の中に、得体の知れない恐ろしい黒い影が隠れているように思わせ、実はそうではない。作者お得意の読者を騙す手法が今回も冴えている。本を読み慣れている人ほど、騙されてしまうだろう。ちょっとした伏線と、いかにも何かありそうな雰囲気をだし、先を想像させる。驚きの事件の真相もそうだが、まさかシックスセンス的な流れなのか?とすら思ってしまう。動物がからむだけでなく、恋愛や親子関係など、複雑にからみあう要素が物語を不思議なものにしている。結末まで到達すると、結局なんだったのか、という気の抜けたような印象が残るが、すべての謎がしっかりと解明されている。どことなく伊坂幸太郎風な印象を受けるのも、作者の特徴だろう。

■ストーリー

秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。

■感想
平凡な大学生が、助教授の息子の死を目の当たりにする。それが本作の奇妙な出来事のスタートなのだが、大きな陰謀の香りや、複雑なトリックを駆使した末の事件のように感じてしまう。そうなると、否が応でも誰がなんの目的で、どうやって事件を起こしたのかということが気になってくる。事件の真相を臭わす記述があちこちに散りばめられ、京也とひろ子のチグハグな関係も、何か事件に関係があるのかと、かってに想像してしまう。さらには智佳までもが、何か事件を起こす動機を持っているのではないかと考えてしまう。

時系列が分断され、回想形式あり、不思議な空間ありと物語はよくわからない状況へと流れていく。極めつけは秋内の状況が、まさかのシックスセンス的な流れなのかとすら思ってしまう。映画を見た人ならば予想がつくと思うが、映画と同じオチだと意外ではあるが、少し期待はずれと思うだろう。本作は、それすらも仕掛けとして使っている。読者がそう思うだろうことの逆手をとり、違った展開を用意する。確かに連続した驚きは続くのだが、結局のところどうだったかというと、少しインパクトが弱い気がした。

悲しい事件が連続して起きたにしては、それほど暗い終わり方ではない。そればかりか、なんだか最後は少し明るい気分なってしまう。動物学者がヘンテコな行動をとり、動物学的な考え方から、メスがオスに好意を示す行動というのも面白い。そして、それをまに受ける秋内も面白い。ソロモンの犬というタイトルどおり、犬を鍵にしたてあげようとしているのだろうが、犬よりも動物学者の方が印象に残っている。ミステリ的な面白さというよりも、繰り返される驚きと、恋愛と動物学を混ぜ合わせた奇妙な日常を読むのが面白かった。

読者の予想を裏切る展開なのは間違いない。




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