空飛ぶ広報室  


 2013.10.17     自衛隊のイメージアップ 【空飛ぶ広報室】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

そもそも自衛隊という組織に広報室があるなんてのは、普通の人はあまり意識しないだろう。自衛隊のイメージアップのために、国民にその活動を広く知らしめる。そんな活動を元パイロットである新米広報官を中心に描かれている。やはり作者が描くと、すべての面で自衛隊のイメージが上がる

作者がこの作品を描くこと自体が、すでにかなりの広報効果であり、本作を原作としたドラマが人気俳優主演で放送されたので、さらに効果は高いだろう。自衛隊がイメージアップのため無償でテレビ番組に貢献するなど、考えもしなかった。知られざる自衛隊広報室の裏側といった感じだろうか。それらに多少の恋愛要素と、作者が得意の女性の熱い思いなどが付け加えられ、すばらしい作品となっている。

■ストーリー

不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのは、ミーハー室長の鷺坂(またの名を詐欺師鷺坂)をはじめ、尻を掻く紅一点のべらんめえ美人・柚木や、鷺坂ファンクラブ1号で「風紀委員by柚木」の槙博己、鷺坂ファンクラブ2号の気儘なオレ様・片山、ベテラン広報官で空井の指導役・比嘉など、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった……。

■感想
自衛隊に広報室が存在したことに驚き、その活動内容にも驚いた。自衛隊を国民にアピールするための活動。そのためには、高価な戦闘機さえも無償で貸出たりもする。たまにテレビドラマやバラエティなどで、自衛隊の戦闘機やヘリが登場するが、それらはすべて自衛隊が無償で貸し出していたようだ。

無償で協力する代わりに、自衛隊の名前や良さを国民に向けてアピールする。その効果を金額で表現し、広報としての価値を見出している。元パイロットが新米広報マンとして活動する上で、自衛隊内部の考え方と外部の自衛隊に対する考え方の違いに戸惑うあたり、作者のすばらしさがでている。

元パイロットの空井と、元記者の稲葉の二人の淡い恋愛物語になりそうな雰囲気がしていたが、結局そこまで恋愛に力を入れていない。作者といえば、体がかゆくなるような恋愛小節家というイメージがあったが、本作ではある程度のレベルに抑えられている。

広報室内部での恋愛は多少におわせているとしても、主人公近辺では空井と稲葉がラブラブになるには至っていない。あくまでも仕事上の付き合いというスタンスを崩すことがない。恋愛感情を含んで仕事に便宜を図るという図式を作りたくなかったのだろう。

広報室というのは、自衛隊の中では裏方なのだろう。元パイロットからすると、負傷したとはいえ納得できない部署かもしれない。空井が夢を諦め、気持ちを露呈したシーンは思わず心打たれてしまう。泣き叫びたいのを我慢した結果、ブツリと緊張の糸が切れ、そこから数珠つなぎのように涙がわいてくる。

自衛隊という組織の不安定な立場と、当たり前のように軍隊と思っている外部の人々にどのようにして自衛隊を認知させるのか。自衛隊の広報室を舞台にした物語というだけでも新しいのに、人気作家が描きドラマ化されたとなれば、自衛隊にとってこれほど大きい広報効果はない。

マスコミと自衛隊広報室の関係が非常によくわかる作品だ。




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