シリアの花嫁


 2011.10.20  哀愁ただよう花嫁の背中 【シリアの花嫁】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
イスラエルとシリアの国境にある村での出来事。正直、このイスラエルとシリアの政治的関係についてはほとんど知らなかった。軍事境界線を越えてしまうと、二度と会えないというのも衝撃だが、イスラエルというそれなりの国で、こんなことが起こっているということが衝撃だ。結婚相手をろくに知らないまま、シリアへと向かうモナ。そこで手続き的な問題から、なかなか国境を越えることができない。間に立たされた者の苦悩が痛いほどよくわかり、この世界の不自由さにイラ立ちを覚える。領土問題ということになると、どちらが悪いというのはよくわからないが、こんな日常がとんでもないということは伝わってくる。何よりこんな世界が当たり前にあるということに衝撃をうけた。

■ストーリー

結婚式の今日は、花嫁モナにとって最高に幸福な日となるはずだ。しかしながら、彼女の姉のアマルは悲しげな顔をしている。なぜなら、一度“軍事境界線”を越えて花婿のいるシリア側へ行ってしまうと、二度と家族のもとへ帰れないのだから。彼女たちをはじめ、家族もみな、国、宗教、伝統、しきたり…あらゆる境界に翻弄され、もがきながら生きていた。モナは決意を胸に境界線へと向かうが、そこで思い掛けないトラブルに見舞われ…

■感想
国の習慣と家族の思い。単一民族国家である日本では考えられない状況だろうと思ったが、日本にも似たようなことはあるのだろう。家柄や宗教や、その他なんだかんだと結婚に反対する勢力というのはある。本作はそのハードルが国家規模だから始末が悪い。その前にも、家族の中で長男だけが異質な扱いをうけ、ロシアの女性と結婚したことについて、親戚から陰口を叩かれる。当人たちの思いよりも、家族や国や宗教の方が重要である世界。第三者が見ると異常なことだが、その小さなコミュニティの中では重要なことなのだろう。

国境を越えるために手続きを行うが、そのちょっとした不備によって国境を越えることができない。イスラエルに住んでいるのに、無国籍という不自然さと、一度シリアに入ると二度とイスラエルに戻ることができないというありえない現実。軍事的な対立や、宗教的な理由はよくわからないが、それらに翻弄される花嫁というのは不憫でならない。家族であっても、若い姪であっても、何もかもが周りの大人たちによって決められた生活を送るしかない。日本に生まれて幸せだと再認識させられる作品だ。

イスラエルとシリアの国境で、板ばさみとなり右往左往する赤十字の職員は気の毒だ。1つの出国印だけで手続きが不能となり、その後事態が進展しない。やっと解決策がみつかり、どうにかシリアへと渡れると思った瞬間、担当者が別の担当者に変わっている。規則に縛られた軍隊や組織を批判することはできないが、なんともやりきれない気分になる。怒りをどこにぶつけてよいのかわからない。最後に花嫁が1人ひっそりと動き出すシーンは、花嫁の背中は強烈な哀愁が漂っている。

こんな世界が当たり前にあるということを、日本に住む自分たちは決して知ることがないのだろう。



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