新釈 走れメロス 他四篇  


 2011.6.3  度肝をぬかれる「走れメロス」 【新釈 走れメロス 他四篇】

                      評価:3
森見登美彦ランキング

■ヒトコト感想

古典の名作といわれるものを、まともに読んだことがないので、オリジナルとの違いをそれほど意識せずに読んだ。そんな中でも「走れメロス」だけは教科書などで大まかな内容を知っていたので、どう違うのか楽しみにしていたが、度肝を抜かれた。最低でも友との約束を守り、駆けつけるというところはオリジナルを踏襲するものだと思っていた。それが見事に裏切られ、めちゃくちゃな中にも信念のようなものがある。笑いの要素が突き抜けており、くだらなさもここまでくると、すばらしい作品に昇華されるのだろう。その他の作品も、おそらくオリジナルとは大違いなのだろうが、その違いがほとんどわからず、完全な作者のオリジナル作品として楽しんでしまった。

■ストーリー

あの名作が京都の街によみがえる!? 「真の友情」を示すため、古都を全力で逃走する21世紀の大学生(メロス)(「走れメロス」)。恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀(「桜の森の満開の下」)。――馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者たちの行き着く末は? 誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

■感想
あの名作のファンの方がたは、本作を読んで怒らないでもらいたい。まったく別物として読むべきものだ。古典の名作たちを現代版に書き換えるといって、ただ真正直に書き換えるのではなく、作者のアレンジにつぐアレンジで、まったく別物になっている。オリジナルを読み通したことがなくとも、そのエッセンスは多少わかっている。本作は、そのエッセンスすらほとんど引き継いでいないような気さえしてきた。ここまで改変されると、もはや作者の完全オリジナルと言っていいかもしれない。

名作の中で「走れメロス」だけは良く知っている。一番なじみやすいかもしれない。それが、ここまでとんでもない作品へと変わってしまうのか。友との友情や、王との約束など、ある意味では正しい解釈なのかもしれないが、真逆といっていいだろう。オリジナルが、友のもとへ駆けつけるメロスを様々な形で邪魔をするくだりは、ちかいものが描かれているが、目的は正反対だ。そして、約束を破った場合、死刑になるのではなく、とんでもなく恥ずかしいことをしなければならない。くだらなさの極地だが、これこそ作者の持ち味なのだろう。

「走れメロス」の強烈な面白さに比べると、そのほかの作品は、なんだかよくわからない。「藪の中」も多少わかっていたつもりだが、突き抜けた面白さを感じることはなかった。ただ、どこかすべての作品がリンクしているようで、登場キャラクターも重複してる。そのため、ヘンテコな京都を舞台にした、作者が良く言う「腐れ大学生」の物語として、十分通用するのではないだろうか。作者の自虐的というか、モテなくて偏屈で、どこかヘンタイチックなキャラたちが暴れまわるのを、ただ読むだけでも楽しくなってくる。

もしかしたら、オリジナルのファンの人は読まない方がいいかもしれない。




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