新世界より 中  


 2011.5.10  崩壊の序章は始まっている 【新世界より 中】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

「神の力」をもつ子供たちをどのように統制していくのか。上巻であきらかとなった先史文明から現在にいたるまで、見せかけの安定によって秩序が保たれた世界の中で、崩壊の芽が息吹きはじめている。まさにすべてが崩壊する前段階のように、倫理委員会が今まで犯した罪があきらかとなる。核爆弾に相当する力をもった子供たちの危険性と、それを制御する大人たち。真実の一端があきらかとなり、崩壊の序章もはじまっている。壊れいく世界を読むようで心苦しいが、どのような壊れ方をするのか興味深い。念動力をもち、だれもが簡単に相手を支配できる世界では、強制的な倫理感を植えつける必要がある。危険な世界だが、見方をかえれば、現在の日本にそっくりだと思えてならない。

■ストーリー

町の外に出てはならない―禁を犯した子どもたちに倫理委員会の手が伸びる。記憶を操り、危険な兆候を見せた子どもを排除することで実現した見せかけの安定。外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされるとき、「神の力」が孕む底なしの暗黒が暴れ狂いだそうとしていた。

■感想
上巻からつづいた陰鬱な状況から、危険な子供への排除行為があきらかとなる。外の世界に繁殖するグロテスクな生物たちの正体をぼやかしながら、危険な力をもつ子供たちをどのようにして制御してきたかが描かれている。過去の悲惨な事件の教訓から、危険な兆候をみせた子供たちを排除する。それはまるで人とは違うことをした子供を排除するような現代にちかいかもしれない。幼いころからの教育で、だれも疑問に思わない世界の中で、ちょっとしたきっかけから排除を逃れようとした子供たちがいた。世界を崩壊へ導く芽なのか、それとも正しい世界へと導く目印なのか。下巻ですべてがあきらかとなる。

子供一人が核爆弾と同等の力をもつ世界。一人の子供がかんしゃくを起こせば、それだけで何千人もの人が死ぬ世界。この新世界そのものが、現代の世界の行く末だと思いたくないのだが、そう想像させる伏線が多数用意されている。もしかしたら、バケネズミなどは、「神の力」を使うことができないおちこぼれ人類のなれの果てなのかもしれない。そんな恐ろしい世界の中であっても、見せかけの平和が存在している。徹底した教育の中での生活。ふと、マトリックスのような仮想現実の世界を思いうかべてしまった。

生命の危機を感じ、逃げ出す子供二人。この二人が、下巻で何か大きな出来事を起こすのだろう。決して明るい未来ではなく、ハッピーエンドは想像できない。単純なSFではなく、人間の力が極度に高まった世界では、どのようにして秩序を保つのか。そして、今の世界に通じるような、教育や道徳観がある。核爆弾とまではいかないが、今の子供にもそれなりの力はあり、武器がある。核爆弾ではなく、包丁やナイフなどに変わっただけだ。根本にある人への教育の行き着く先が、本作の世界なのだろう。教育の失敗=世界の崩壊へと繋がるのなら、それもやむを得ないのかもしれない。

下巻がどのような結末になるのか。崩壊への準備はすべて整っている。




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