2011.2.28 壮大なSFの幕開け 【新世界より 上】
評価:3
貴志祐介ランキング
■ヒトコト感想
上巻からすでに、とてつもないSF作品だという雰囲気がある。1000年後の日本が舞台となっているが、生半可な世界ではない。念動力を使えるのが当たり前の世界。そこにうごめく、人間以外の生物たち。「神の力」を持つ人間が、平和に暮らせるのは様々な理由がある。「神の力」を持つ人間だけが存在する理由。奴隷のように扱うその他の生物。最初は子供が主役の、なんてことないSFかと思っていた。それが中盤あたりから、先史文明の秘密が明らかとなると、面白さは強烈に加速していく。すべてには理由があり、平和な世界にも必然性がある。念動力という強力な力を駆使し、バケネズミを倒していく様や、強力な「神の力」を持つ意味など、ワクワク感は止まらない。
■ストーリー
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた…隠された先史文明の一端を知るまでは。
■感想
1000年後の日本。念動力を使えるという以外は、ほとんど現在と変わらないといってもいいだろう。そんな世界で、人間だけが特殊な力を持ち、子供たちは平和な日常を過ごす。冒頭から序盤のあたりまで、どこにでもあるありきたりなSF作品の雰囲気だった。グループ対抗の念動力を使った競技など、明るく朗らかな子供たちの楽しげな生活が描かれている。図書館の書士がなにやら重要な役目をになっているという意味が、最初はわかならかったが、中盤になるとはっきりその理由がわかってくる。うっすらとだが、人間以外の生物との関係に、大きな意味合いを持たせている。
先史文明の秘密が明らかとなると、作中の登場人物たちと同じような衝撃を受ける。明るく楽しい冒険SFなどではない、もっと深いレベルの人間社会のあり方を考えさせられるような作品の香りがしてきた。念動力という強力な力を持つことによって、人間同士がどうなっていくのか。行き着く先は…。衝撃的な事実の一端を匂わせられ、否が応でもその先の世界を想像せずにはいられない。大きな力を持つ代償と、他の生物に対してどのような仕打ちをしてきたのか。バケネズミが登場してくるあたりから、物語の世界にどっぷりとはまり込んでしまった。
本作の結末がどのようになるのかまったく想像がつかない。明るい未来ではないことは確かだ。巨大な力を持つ恐怖と、社会システムに組み込まれ、飼いならされた子供たち。どの段階ですべての秘密が明らかとなり、どの段階で崩れていくのか。上巻では、「神の力」を持つ子供たちが、うっすらとだが社会の秘密に気付き始め、バケネズミとの激しい戦いを繰り広げ、終わっている。ある程度、現代の社会にも当てはまる部分がある。現代では特別な力がなくとも、人を傷つけることは簡単にできる。その力の規模が核爆弾程度にまで広がる物語の世界では、力を制御する強固なマインドコントロールが必要なのだろう。
壮大なSFの序章。これからどのような壊れ方をしていくのか、気になって仕方がない。
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