新世界より 下  


 2011.6.29  とんでもなくすばらしいSF 【新世界より 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

壮大な世界観。予想どおりのすばらしいSF作品だ。上、中巻で積み上げたものを本作で一気に放出している。念動力という「神の力」をもつ人間たちに襲いかかる恐怖。無敵と思われた力にも、弱点がある。圧倒的な力をもった存在が、あっさりとやられていく様は、唖然としてしまう。そして、今まで虐げてきたバケネズミたちの反撃にあう。人類はどうなっていくのか、そして「神の力」に対抗する者たちの正体とは…。最後まで気が抜けないすばらしい作品だ。長大な物語でありながら、もう一度読みたいという気分になってくるのは、すぐれた作品の証拠だろう。ラストには壮大なカタルシスを感じることができるが、それはむなしいことだと気付いてしまう。勧善懲悪ではない、人間の浅ましい部分が見えてくるのも本作のすばらしい部分だろう。間違いなく作者の代表作の一つとなるだろう。

■ストーリー

夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と鳴咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。

■感想
念動力をもつ選ばれた人間たち。念動力を使うのが当たり前の世界で、みせかけの平和が保たれていたはずだった。そこに、突如として発生した出来事は、人々を恐怖のどん底に突き落とす。作られた平和の世界で、選ばれた人間たちが、どのようにして秩序を保っていくのか。上、中巻で語られた伏線が、すべて本作で活きている。バケネズミと人間の関係。廃墟とかした東京。人の存在が、核爆弾以上の兵器となりうる世界で、どのようにして子供たちを教育していくのか。すべてが、本作の出来事を起こさないための伏線でしかない。ただ、一つの出来事でダムの決壊のように、脆弱な世界は崩れていく。

圧倒的な力をもつはずの人間たちが、逃げまどう。どんな攻撃さえも跳ね返す念動力の使い手であっても敵わない。そんな存在が登場したとき、人々はただ逃げまどうしかない。今まで家畜同然の扱いをしてきたバケネズミたちに対して、混乱の中、抗うすべがない。人間たちが、バケネズミの策略にはまり、やられていく様は、すべてラストのカタルシスへと繋がっている。人間たちが、ただ無様に逃げまどう姿は、読んでいて辛くなり、バケネズミたちの卑劣な策略には、怒りすら覚えてしまう。極限まで高まった怒りは、最後の最後に解消されるのだが、それもむなしいことだと気づいてしまう。

これほど壮大な物語で、ドキドキワクワク感を長時間保てるのはすばらしい。計算されつくした世界観はもとより、現代の日本に通じるような危うさが見え隠れする世界。念動力が使えない人間たちは、いったいどこへ行ってしまったのかという、当初の疑問もすべて本作で明かされている。SFとミステリーが融合し、なおかつ冒険ロマンに溢れたすばらし作品であることは間違いない。SFということで、もしかしたら毛嫌いする人がいるかもしれないが、騙されたと思って上巻だけでも読めば、その後は読み進む手を止めることができないだろう。

間違いなく、作者の代表作の一つとなることだろう。




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