砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない  


 2011.8.31  悲劇的だが妙にさわやかだ 【砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】

                      評価:3
■ヒトコト感想
思春期の微妙な時期の不安定さがものすごく伝わってくる作品だ。ひきこもりの兄に、嘘ばかりつく虐待を受けているであろう美少女転校生。主役である中学生のなぎさが遭遇する残酷な出来事は、その残酷度に比べ、やけに爽やかに感じてしまう。グロテスクだけど、青春を感じ、悲しいけど楽しさを感じてしまう。よくありがちな中学生の青春物語につきものの、背中がむずむずするような不自然さがない。お金=実弾を手にするため、ひたすら現実を生きるなぎさと、空想の世界に生きる転校生。ひきこもりの兄が絶妙なアクセントとなり、物語の世界の悲惨さを和らげている。残酷な結末のはずが、なぜか最後にすっきりと爽やかな気分になれるのは、ひきこもり兄のおかげだろう。

■ストーリー

その日、兄とあたしは、必死に山を登っていた。見つけたくない「あるもの」を見つけてしまうために。あたし=中学生の山田なぎさは、子供という境遇に絶望し、一刻も早く社会に出て、お金という“実弾”を手にするべく、自衛官を志望していた。そんななぎさに、都会からの転校生、海野藻屑は何かと絡んでくる。嘘つきで残酷だが、どこか魅力的な藻屑となぎさは序々に親しくなっていく。だが、藻屑は日夜、父からの暴力に曝されており、ある日―。

■感想
ある日転校してきた美少女は嘘つきで、金持ちで、父親から虐待を受けている。兄が引きこもりで母子家庭で貧乏というなぎさとの対比がすばらしい。そして、ひたすら実弾を手に入れようとするなぎさと、妄想である砂糖菓子の弾丸を撃ち続ける少女、藻屑。グロテスクで残酷な物語のはずが、そこまで嫌悪感がない。どこか昔の乙一を連想させるような雰囲気だ。現実的ななぎさと浮世離れした藻屑。中学生の不安定な心情と、直面する問題などが、形をぼやかしながら表現されている。そして、理不尽な状況や、ありえない設定が嘘くさくなく、現実感があるのが不思議だ。

作者の作品としては推定少女を読んだが、中学生の妄想的作品という印象があった。本作も、そう思えなくもないが、圧倒的な存在感と、中学生の不安定な世界観が広がっている。不幸な境遇のはずのなぎさが、よくわからない強さをもっていたり、神の視点をもつ兄の存在だったり、空想的だが、リアリティがある。恐ろしく残酷な結末であっても、そこに嫌悪感がなく、そうなるべくしてなったのだという、物語の正しい形へと導かれているように感じられた。ラストでは、物語のトーンとはうらはらに、妙なさわやかさと前向きな気分にさせるパワーがある。

ところどころに登場する比喩もすばらしく、登場人物たちのキャラクターも絶妙だ。憎たらしいほどの悪意や、嫌悪感をいだくような中学生のわがままさではない。この世界であれば、危うい中学生であっても、強くそして、輝かしい未来がなくても、前向きに生きることができる。悲劇的な物語であり、現代社会のゆがみだと表現する人もいるかもしれない。ありがちなストーリーだが、あえてバッドエンド風にしている部分がすばらしい。なおかつ、読後感がすっきりしている。これが、最後に藻屑が普通になり、兄が働きだすなんていうハッピーエンドになったら興醒めしていただろう。

この雰囲気とキャラクターはすばらしい。中学生が読むと衝撃を受けるのではないだろうか。




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