最後のメッセージ  


 2012.9.6    ニヤリと笑える皮肉 【最後のメッセージ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ブラックユーモア溢れるショートショート。サラリとなんの印象もなく終わる作品もあれば、ニヤリと笑いがでる作品もある。世相を反映させた作品であったり、今の時代からするとずいぶんと的外れな印象が拭い去れない作品もある。それでも、ありふれた日常の中で、ちょっとした変化や皮肉にまみれた出来事というのは、読んでいて爽快だ。教訓めいたものや、日本政府に対して痛烈な皮肉を投げつけている作品もある。20年以上も前の作品のはずが、今の日本政府にも当てはまってしまうというのが、さらに皮肉なことかもしれない。世相を如実に現した風刺的な物語は、時代がどれほど変わろうとも、変化しない部分があるのだろう。

■ストーリー

許せない。生かしてはおけない―惚れたホステスはとんでもない悪女だった。貯金をはたき、会社の金を使い込み、あげくにクビ。まじめ男の梨本は5年がかりの復讐を実行するが…。表題作「最期のメッセージ」を含め全42編のショートショート集。ありふれた日々の風景がいつのまにか異世界へすべり落ちていく。

■感想
表題作の「最後のメッセージ」は、よくあるパターンかもしれない。ただ、ミステリー好きとしては、ダイイングメッセージと言われると、何か大げさな仕掛けがあるものと想像してしまう。それが…。なんとも気の抜けるオチではある。それまでに、憎きあの女をどのようにして始末するかという、長い前フリがあるので、ラストの怒涛の展開と、サラリとしたオチにずっこけてしまう。この短編としての力のバランスが、物語の面白さの肝だろう。もし、前フリさえもサラリと短いものであったら、こうも強く印象に残っていないだろう。

「あらすじ」という作品は、みごと!と言うしかない。小説を読むことなく、あらすじばかりを暗記する子ども。それだけでテストは満点がとれるという。あらすじだけ読めば、中身を読む必要がない。かなりの極論だが、言っていることに間違いはない。小説を楽しむためには、あらすじだけ読んで読んだ気になっていては駄目な気もするが…。ストーリーが決まっていれば、あとは概略だけ読めば良いという効率主義には、半分うなずいてしまう。そして、最後に、あらすじだけでいいのなら…。人生はあらすじだけでは楽しめないということだ。

「醜い芸能界」は、まさにオチにすべてが集約されている。テレビ画面に映る俳優や芸能人たちの顔が日に日に歪んでいくと嘆く夫婦。芸能界は足のひっぱりあい、心の歪んだ者たちの巣窟なので、自然と心のゆがみが顔にもでてきたということらしい。夫婦はテレビ画面に映る、歪んだ芸能人たちの顔を見ながら語るのだが…。芸能界がどの程度歪んでいるのかなんてことはよくわからないが、半分納得してしまうのは、世間の思いはみな同じなのだろう。しかし、目に見えて顔が歪んでいるのはおかしいと思いつつ読み進めると…。まさにオチがすべての作品だ。

相変わらずショートショートのうまさはある。ただ、印象的な作品と、そうでない作品の差が大きく感じてしまう。




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