最後の記憶  


 2011.4.23  田舎のありえない風習 【最後の記憶】

                      評価:3綾辻行人ランキング

■ヒトコト感想

記憶が鍵の本作。痴呆症と思われる症状を発症した母親。白い閃光やバッタの飛ぶ音を怖がるなど、序盤からいくつか気になるキーワードが登場する。母親を苦しめる最後の記憶を探りながら、自分の中にあるひとつの疑問を晴らそうとする。人の頭の中にある記憶とはどういったものなのか。痴呆症を発症した場合は、一番強いインパクトがあった記憶だけが残っていく。主人公である森吾が母親の出自から謎を解き明かそうとする。多数の伏線がそれほど効果的な役割を果たしているとは思えないが、田舎のありえない風習を交えることで、奇妙な雰囲気を生み出している。結末では多少の驚きがあり、仕掛けもそれなりに凝っている。しかし、すんなり納得できる流れではなかった。

■ストーリー

脳の病を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。彼女の心に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖の記憶」だけだった。突然の白い閃光、ショウリョウバッタの飛ぶ音、そして大勢の子供たちの悲鳴―。死を目前にした母を今なお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか?波多野森吾は、母の記憶の謎を探り始める…。名手・綾辻行人が奇蹟的な美しさで紡ぎ出す、切なく幻想的な物語の迷宮。

■感想
母親が記憶を失いつつあるなかで、「すさまじい恐怖の記憶」だけが残っていく。主役である森吾が、自分にふりかかる奇妙な現象を解き明かすために、母親のルーツを探り出す。バッタの飛ぶ音を聞くと、恐怖の記憶がフラッシュバックするという母親。そこにはいったいどんな秘密があるのか。森吾が見る幻覚にはどういった理由があるのか。痴呆症を発症した母親の奇妙な言葉から、物語はしだいに不可解な方向へと動いていく。秘密を探りだすたびに、新たな真実が浮かび上がり、そこから数珠繋ぎに曖昧な現象に説明がつけられる。まるでアドベンチャーゲームをやっているような気分だ。

結末へ近づくにつれ、母親と森吾にふりかかる奇妙な出来事の理由が明らかとなる。その前には、連続して発生する凄惨な事件が、森吾の幻覚と何か関係がありそうな雰囲気をかもし出している。ある程度ミステリを読み慣れた人であれば、森吾に二重人格などの疑いをかけるだろう。現実世界で起こる出来事が、森吾の見る幻覚に近い状態となる。母親が苦しむ恐怖の記憶と、森吾が体験する幻覚。母親の出自には大きな秘密があり、それが恐怖の記憶のルーツになるのか、引きつけられるポイントは多数用意されている。

恐怖の記憶の原因は、はっきりと示されている。しかし、それに納得できるかは、かなり苦しいかもしれない。物語の核ともいえる「恐怖の記憶」だが、バッタの飛ぶ音や、白い閃光の理由も、そのものずばりを描いている。ただ、その状況には納得できなかった。物語の流れからすると、かなり唐突であり、母親の出自には奇妙な風習や、独特な文化があるという流れからは、それほど繋がりがあるようには思えなかった。強引にオチへと繋げているような印象はぬぐいされない。それまでに積み上げた伏線が、あまり活きていないような気がした。

中盤までの、奇妙な雰囲気はすばらしい。




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