最後のディナー  


 2013.11.10    小心者の石岡くん 【最後のディナー】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

御手洗が海外へ旅立ち、横浜に残された石岡が様々な謎に直面する。「龍臥亭事件」に登場した里美が再登場し、石岡との微妙な関係も描かれている。御手洗抜きで石岡が謎を解くのかと思いきや、いつもどおり海外の御手洗と偶然連絡がとれ、御手洗に頼ることになる。謎としては特別な印象はない。里美にほんろうされる石岡の姿ばかりが印象深い。

今まで微かに感じてはいたが、本作では石岡のダメっぷりが強調されている。英会話学校の基礎クラスであたふたしながら英会話を習う姿は、あまりにも強烈すぎる。里美の気持ちが石岡に傾いているのは明らかなのだが、小心者の石岡らしく行動をおこせない。積極的な石岡なんてのは読みたくないが、もやもやすることは確かだ。

■ストーリー

ミステリー作家の石岡は女子大生の里美に誘われて英会話学校に通い始めた。ふたりはそこで知り合った孤独な老人・大田原と親交を深めるが、大田原はイヴの夜の晩餐会を最後に帰らぬ人となった。老人はなぜ、「神を見た!」と叫んだのか。御手洗が見抜いた真相とは?「龍臥亭事件」の犬坊里美が再登場。

■感想
「里美上京」はまさに犬吠里美が、これから石岡と絡みますよ、という前ふりの作品だ。御手洗シリーズのファンならば、過去の作品に登場した人物が、別の形で出てくるのはうれしいだろう。ただ、里美のキャラクターが御手洗よりも石岡よりのため、ミステリーとして親密な絡みがあるようには思えない。

石岡が淡い恋心をいだく里美に対して、ウジウジとしながら煮え切らない態度をとるのを楽しむべきなのだろう。ここに、御手洗が乱入したとしたらいったいどうなるのか。石岡メインの作品ならば、里美は必須のキャラクターかもしれない。

「大根奇聞」は歴史ミステリーを解き明かす物語だ。餓死が目前に迫った状況で、畑から桜島大根を盗んだ老婆。役人につかまり打ち首になるはずが…。なぜ老婆は役人に捕まらなかったのかが謎なのだが、石岡はごく当たり前の推理を展開する。

オチとしては海外にいる御手洗が、電話越しに解き明かすのだが、あっさりしたものだ。よく考えればわかるのだが、そんな単純なトリックなのかという驚きと、御手洗が謎を解き明かした要因が、技術的に不可能に思えて仕方がない。このあたり、謎を解く過程は突っ込むべきではないのだろう。

「最後のディナー」は、悲しい物語ではあるが、すっきりとした終わり方が良い。石岡は里美に連れられてやってきた英会話教室で、ある老人と知り合う。老人はクリスマスの日、石岡たちとディナーを楽しむが、突如として行方不明となる…。石岡と里美の関係の微妙さと、老人の決意の重さを感じさせられる作品だ。

老人と石岡はお互い隠し事がありながら、相手に気を遣い、心を通じ合わせる。老人が半生を語ったあたりから、オチは見えてくるのだが、結末に悲壮感はない。御手洗が謎を解き明かす必要性があるかは微妙だが、石岡には荷が重いのは確かだ。

御手洗は海外で解明するだけ。石岡メインの作品だ。




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