左岸 上  


 2013.2.18     愛に生きる女 【左岸 上】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

茉莉の愛の物語。ふたつ上の兄・惣一郎の死をきっかけとして、少しずつ変わっていく茉莉。特徴的なのは、茉莉が博多弁で会話するということと、妄想の中で兄の惣一郎と会話をするというところだ。母親は自由気ままに活動し、イギリスへ留学しつつも、家族の面倒をしっかりとみる。対して、父親は仕事一筋。茉莉が感じる違和感というのが、母親に対する嫉妬のように思えてしまう。付き合う男との関係により、そのときの幸せ度合いが変わる茉莉。幼馴染の九との関係が希薄となりつつも、茉莉は愛を貫く。女目線の物語が本作として存在し、男目線の作品は「右岸」として存在するのだが、茉莉の物語は愛に生きる波乱万丈の女の生き様のように思えてくる。

■ストーリー

仲の良い両親と、ふたつ上の兄・惣一郎、幼なじみの少年・九に囲まれ、福岡で育った茉莉。しかし惣一郎の死をきっかけに、幸せな子供時代は終りを告げる。兄の面影を胸に、茉莉は17歳で駆け落ちし、東京へ向う。男たちとの出会いと別れ、九との再会を経てめぐりあったのは、このうえない幸福と、想像もつかないかなしみだった―。辻仁成と組んで放つ、愛を求めて流れゆく男女の物語。

■感想
上巻では、茉莉が福岡からかけおちし、川崎で奇妙な三人暮らしすることから始まる。幼少時代の兄との関係から、妄想の中で兄の声を聞く茉莉。付き合う男をすべて兄と比較し、兄の思い出を美化する茉莉の考え方は、不幸な女の典型のように思えてくる。本作を女性が読めば、また違った感想をもつのかもしれないが、男目線で読むと、男によってその瞬間の幸せ度合いが大きく変わる女というのは、どことなく刹那的で、不幸へ一直線のような気がしてならない。男に依存しているわけではないが、女として自立しているとも思えない。

福岡からかけおちの際に、一緒に川崎で生活した男。その男と別れ、同じアパートの隣に住む男と付き合い、一緒に福岡の実家へ帰る茉莉。自由奔放だが、そんな茉莉を受け入れる両親の優しさがある。ただ、その優しさに感謝しない茉莉と、母親が同じく自由奔放というのが特徴的だ。茉莉からすると、父親をほっといて自由にイギリスへ旅行に行く母親をよく思わないのはわかる。が、それは茉莉の、女として自立している母親に対する強烈な嫉妬のように思えてならない。

上巻では、茉莉の愛した男たちが、すべて茉莉から離れていく。その結果、茉莉は不幸な方向へと流れていく。今後、下巻では茉莉がどうなっていくのか。「右岸」の主人公である九と再会することがあるのだろうか。娘の存在が、茉莉にどのような影響を与えるのか。自由気ままなようでいて、幼いころに死に別れた兄・惣一郎の妄想にとりつかれている。茉莉は惣一郎の呪縛から解き放たれることができるのか。それとも、兄の幻想に悩まされ続けるのか。強烈なインパクトはないが、愛に生きる茉莉の生き様にしびれてしまう。

下巻でどのような流れになるのか、気になるところだ。




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