2012.3.5 恋愛に対する情熱 【冷静と情熱のあいだ-Rosso-】
評価:3
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■ヒトコト感想
別れた恋人のことを女々しく思いだすのは男だけかと思ったが、そうでもないらしい。女のあおい目線で描かれた本作と、男の順正目線で描かれたbluがある。もしかしたらbluを読めばまた違った感想をもつのかもしれないが、恋愛に対するわかりやすい情熱というのは感じなかった。かわりに、内に秘めた、今までにたまったマグマのような熱量が、あることをきっかけとして爆発したような、そんな印象をうけた。幸せで安定した恋愛より、どこか危うい確実性のない恋愛にのめり込む。それは、過去の経験を美化するのもあるだろうし、変化を求めているというのもあるだろう。女性の恋愛に対するアグレッシブさを感じ、突然別れを告げられた男に、どうしても感情移入してしまうのは、自分が男だからだろう。
■ストーリー
穏やかな恋人と一緒に暮らす、静かで満ち足りた日々。これが私の本当の姿なのだろうか。誰もが羨む生活の中で、空いてしまった心の穴が埋まらない。10年前のあの雨の日に、失ってしまった何よりも大事な人、順正。熱く激しく思いをぶつけあった私と彼は、誰よりも理解しあえたはずだった。けれど今はこの想いすらも届かない―。
■感想
静かで満ち足りた日々をおくるあおい。その生活は、作者が良く描く、時間の流れがものすごくゆっくりとした静かな生活だ。パートタイムの仕事をし、本を読み、ゆっくりバスタブにつかり、料理をし、セックスをする。なんの問題もなく、幸せな日々でしかない。周りの友達にも恵まれ、贅沢な生活をおくるあおい。満たされた生活をぶち破る一つの出来事がなければ、もしかしたらそのまま平穏な生活が続いていたかもしれないが、なんとなくだが、どこかで別れは訪れていたような気がしてならない。
現在の幸せを捨て、過去の美化された記憶を追い求める。あおいのような女性はめずらしいような気がする。静かでゆっくりとした恋愛に飽き飽きしたという描写はない。なので、唐突に、ものすごい瞬発力で行動したように思えてしまう。かすかにマーヴとのいざこざはあるが、それは日々の許容範囲だろう。これほど満ち足りた生活をしながら、突然、なんの前触れもなく別れを切り出すというのは、男の立場からすると恐ろしくてならない。女目線の本作だが、やはり女の気持ちは男にはよくわからない部分がある。
もしかしたらbluを読めば違った印象をもつのかもしれない。順正のパートでは、あおいと順正の過去が詳しく描かれているのだろうか。本作では、別れのきっかけとなった事件くらいしか描かれていないため、あおいの順正に対する熱の上げ方が、あまりに突然すぎるというイメージしかない。恋愛至上主義ではないが、恋愛のためなら、すべてをなげうってもかまわない。そんな強い覚悟の描写はないが、あおいからは強烈は意思の強さを感じてしまう。燃え上がるような熱い恋愛を求める人には、本作はたまらない作品だろう。
タイトルどおり冷静かと思いきや、とんでもない情熱を隠しもった女性の物語だ。
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