ら抜き言葉殺人事件  


 2013.3.8     作者の実体験か? 【ら抜き言葉殺人事件】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

作者は、”ら抜き言葉”を読者に糾弾されたのか、もしくは巷に氾濫する”ら抜き言葉”に腹を立てているのだろうか。おそらく前者だろう。作中では、偏執的にら抜き言葉を糾弾する女が登場する。糾弾される側の作家は反論し、激論が繰り返されている。作家が殺され、糾弾した女は自殺する。犯人が誰なのかという疑問よりも、ら抜き言葉に対するやりとりばかりが印象に残っている。そして、結末間近では、夫に寄生する女性に対しての、強いイラ立ちのようなものすら感じてしまう。物語を通して、作者の強い主張が繰り返されている。本作を読み、誰に対して共感するかによっては、非常にストレスのたまる作品と感じるかもしれない。

■ストーリー

ピアノと日本語を教えている笹森恭子が、自宅のベランダで首吊り自殺をした。部屋には、ある作家に誤りを指摘した手紙に対する返信が残されていた。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、現場に不審を抱き、殺人説を唱える。そんな時、またもや自殺者が。しかも、恭子に来ていたのと同じ作家からの葉書が…。

■感想
”ら抜き言葉”に敏感なのは、小説家だからなのだろう。そして、ら抜き言葉を神経質に読者から指摘されでもしたら、作家としては面白くない。もしかしたら、作者のそんな体験から本作が生まれたのかもしれない。作中の作家は、男女間について特殊な考え方をしてはいるが、ら抜き言葉の説明については説得力がある。ミステリーとしての魅力には乏しいが、ら抜き言葉から始まり、当たり前に使っている言葉が、すでになんらかの省略された形というのに驚いた。作中にあるように、ら抜き言葉も、そのうち当たり前に使われることになるのだろう。

ら抜き言葉を糾弾する女は中年女性だ。読者はこの中年女性に異常な印象をいだくだろう。その根源に、青春時代の辛い経験があったとしても、印象は弱まらない。それと共に、後半では、夫に寄生する中年女性のあさましさが、強烈に描かれている。ここまで読むと、ら抜き言葉と、世間の中年女性に対して作者が怒っているように思えて仕方がない。今ある生活を壊されたくないから、身勝手な言い訳を並べる女は、自分が男だからだろうか、無性にイラついて仕方がなかった。吉敷が冷静に看破しているので、イラ立ちはすっきりと解消されたのは良かったのだが…。

本作は男と女で印象が大きく変わるだろう。作中に登場する笹森恭子や作家の奥さんと同じ年代の女性が読むと、男の身勝手な理論に怒りがわいてくるかもしれない。逆に、男が読むと、自分勝手な考え方をする女たちに嫌気がさすだろう。作者は当然男よりの描き方をしている。それはつまり、数多くの女性ファンに対して、ある種のハードルをもうけているのかもしれない。作者の御手洗潔シリーズは、女性ファンが多いらしいが、本作を読んでもまだファンとしてついてきてくれる女性だけをファンとして大切にする、というメッセージのように勝手に感じてしまった。

作者がどのような思いで本作を描いたのかは、作者にしかわからない。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp