2012.1.26 心が落ちているときは読むべからず 【落下する夕方】
評価:3
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■ヒトコト感想
8年ものあいだ一緒に暮らした恋人と別れる瞬間。男女の違いはあれど、その場面を読んだときに、言いようのない心のざわつきを覚えた。別れを告げられたその瞬間、今までの幸せな生活は一気に崩れ去り、二度と元には戻らない。取り返しのつかない事態となっても何もできない。さらには、相手が心奪われたのが一度しか会ったことのない人物だとわかると、もはや心は崩壊するしかない。辛い場面からスタートする本作。その後も、元彼が熱を上げる華子との奇妙な共同生活が描かれる。なんだかよくわからないが、終始気持ちが不安定なまま読み進めてしまった。自由気ままに生きる華子に、心乱されながら、どうしようもない現実をただ受け入れるしかない。なんだか無性に悲しい物語だ。
■ストーリー
梨果と八年一緒だった健吾が家を出た。それと入れかわるように押しかけてきた健吾の新しい恋人・華子と暮らすはめになった梨果は、彼女の不思議な魅力に取りつかれていく。逃げることも、攻めることもできない寄妙な三角関係。そして愛しきることも、憎みきることもできないひとたち…。
■感想
主人公の梨果以外は、どこか心の中が病んでいるようだ。自由気ままに生きる華子。その華子に突然恋をし、梨果と別れる決断をした健吾。あげくは華子に翻弄され、会社まで辞めてしまう。その他にも、華子と付き合った結果、離婚した男や、父親が華子と関係を持つ子どもなど、どこか異常な関係ばかりだ。すべての中心であるはずの華子からは、その心が見えない。人間的感覚が欠如しているのか、それとも異常な精神の持ち主なのか。華子の異常さが読者の心を乱し、不安定な気持ちで読み進めることになるのだろう。
終始辛い感情ばかりが湧き上がる物語だ。突然健吾から別れをきりだされた梨果。その瞬間をつい自分に置き換えて考えてしまう。瞬間的に絶望感が襲ってくると共に、どうにかして元通りに戻らないかと頭を働かせるが、すべては無駄なことと気付く。すべての後悔は意味がなく、新たな道へ突き進むしかないのだが、それもできない。冒頭から辛く苦しい物語となり、その後は、華子に翻弄され続ける。中盤では、なぜ梨果は華子と一緒に暮らすことを選んだのか。その理由ばかりが頭の奥底から離れることがなかった。
華子に心奪われる者たち。もしかしたら梨果もその一人なのかもしれない。目の前で華子に熱を上げ、ダメになっていく健吾を見ている辛さと、なぜか華子に心奪われる自分。梨果の心のざわつきは、読者にも十分伝わってくる。誰も幸せになれず、華子と関わったものたちは、決まって不幸の道を歩み始める。物語全体が、最初から最後まで陰鬱な雰囲気で、決して晴れることのない曇天の道をひたすらとぼとぼと歩き続けるような感覚だ。
気持ちが沈んでいるときに読む作品ではないだろう。
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