プラチナデータ  


 2011.1.26  近未来のDNA捜査システム 【プラチナデータ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

全国民のDNAを取得し、完全な犯罪抑止システムを作る。本作に登場するDNA捜査システムのようなものが現実に現れるのもそう遠くない未来かもしれない。DNAからモンタージュを作成し、身内のDNAがあれば本人にまで到達してしまう夢のシステム。それを実現するためには全国民のDNA登録が必要となる。世相を反映した作品だ。国が国民を管理することに難色をしめすが、それがいつのまにか当たり前になる現在。DNAで管理されてしまえば、もはや逃げ道はない。完璧なDNA捜査システムを用いた特殊なミステリー。謎解きの面白さよりも、その仕組みに圧倒されてしまう。システムを考えた神楽の、幼少期のトラウマから始まり、二重人格を含めた複雑な事件。いったいどういったオチになるのか、途中で止められなくなる作品だ。

■ストーリー

犯罪防止を目的としたDNA法案が国会で可決し、検挙率が飛躍的に上がるなか、科学捜査を嘲笑うかのような連続殺人事件が発生した。警察の捜査は難航を極め、警察庁特殊解析研究所の神楽龍平が操るDNA捜査システムの検索結果は「NOT FOUND」。犯人はこの世に存在しないのか?時を同じくして、システムの開発者までが殺害される。現場に残された毛髪から解析された結果は…「RYUHEI KAGURA 適合率99.99%」。犯人は、神楽自身であることを示していた―。確信は疑念に、追う者は追われる者に。すべての謎は、DNAが解決する。

■感想
ミステリー的にトリックで驚くようなことはない。完璧と思われたDNA捜査システムに欠陥があるとしたら、それはどういったパターンなのか。ある事件が起きたとき、完璧なDNA捜査システムが導き出した犯人が思いもよらない人物となる。そうなってくると、自然にシステムの欠陥を疑ってしまう。物語はアナログな刑事である浅間とシステムを考案した神楽の二人の目線で語られる。神楽のシステムに対する信頼と、浅間のごく一般的な感覚。二人の対比を描きながら、二重人格も含めて物語は複雑な方向へと動いていく。

単純に1つの事件だけでなく、物語を複雑にする別の要素も登場してくる。脳に電流を通して快感を得る機械など、DNAとどういった関係があるのか序盤はまったくわからない。それが終盤になると見事に意味をなしてくる。重要なものではないが、正体不明のDNAと二重人格、そしてネット上で広まる脳に電流を通す機械など、物語の盛り上がりは中盤でピークに達する。神楽の前に現れる謎のスズランという少女については、すぐにその正体がわかったがこれも物語を不思議な雰囲気へと導く重要な要素なのだろう。

ラストではプラチナデータの衝撃的な意味が明かされる。もし、本作のようなことが当たり前に行われているとしたら、当然一般人として頭にくる。おそらく世の中のシステムとして当たり前に存在することなのかもしれないが、やりきれない思いはある。作者は完璧なDNA捜査システムの穴を描いているが、現実世界に無数にある穴のことも匂わせている。それに対して解決策があるわけでもなく、なんの力もない一般人はただそれに従うしかない。最後は無力な一般人は見て見ぬフリをするしかないという、ちょっとやりきれない思いのまま終わっている。

足利事件のようにDNA捜査も完璧ではない。それだけに、本作は未来のDNA捜査を予言しているかのような作品だ。




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