2011.4.30 無機質な親子たち 【オー!ファーザー】
評価:3
伊坂幸太郎ランキング
■ヒトコト感想
最初の数ページ読んだだけで作者の作品だとわかる。父親が四人いるという設定以外には、いつもと変わらない。小粋な会話に人間味のないキャラクターたち。ちょっとした謎やピンチが訪れたかと思うと、都合のよい展開となり、最後はハッピーエンドとなる。作者の作風が好きな人にはたまらないだろう。ただ、すでに何作が作者の作品を読み、ある程度慣れてしまうと、少し厳しい。パターンが同じなので、先が予測できてしまう。キャラクターは特殊で個性はあるのだが、いかにも架空の人物という雰囲気がただよう。無機質というか、キャラクターに魂がこもっていないのが特徴で、それが奇妙な雰囲気をだしているのだが、さすがに慣れてくると、新鮮味はない。
■ストーリー
みんな、俺の話を聞いたら尊敬したくなるよ。我が家は、六人家族で大変なんだ。そんなのは珍しくない?いや、そうじゃないんだ、母一人、子一人なのはいいとして、父親が四人もいるんだよ。しかも、みんなどこか変わっていて。俺は普通の高校生で、ごく普通に生活していたいだけなのに。そして、今回、変な事件に巻き込まれて―。
■感想
四人の父親をもつ由紀夫。不可解な事件にまきこまれ、右往左往するが、最後は四人の父親とまわりの協力で絶体絶命のピンチから脱出する。まず、キャラクターがいつもの作者のキャラそのものだ。身近にいるような人物ではなく、どこか特殊で感情のない作り物のロボットのような感覚。それがこのキャラクターの魅力のようにも思えるが、無機質で意味のないような会話にも、おしゃれ感が漂っていたりもする。もし、身近に由紀夫のような人物がいたら、近づきづらい。小粋な会話だとは思うが、そこに人格があるようには感じられない。
作者の特徴が満載の本作。このキャラクターがあってこそなのだろう。それはわかってはいるが、ワクワクどきどきや、キャラクターの特殊さからくる目新しさというのがなかった。四人の父親たちの個性で物語は進んでいるのだが、個性はあるが根本の人間性はすべて同じように感じてしまった。上っ面の特技は、博識やギャンブル好きや格闘好きや女好きなどさまざまだが、結局それらの上辺をはいでしまうと、すべては同じキャラクターのように思えてしまった。それは由紀夫も含めてそう感じてしまうのだが…。
作者の得意パターンなので、最後まで安心して読むことができる。多数用意された伏線はしっかりと活かされており、謎も解決されている。ただ、作者のほかの作品と比べると、すべてがスケールダウンしているように感じられた。もっと得体の知れない巨大組織や、大きな陰謀であるとか、壮大なカタルシスや、あっと驚くようなオチであったり、どうしてもそのあたりを期待してしまう。作者の作品としては、平均点なのだろうが、期待値が高いので、どうしても残念に感じてしまう。
奇抜な設定と、いつものキャラクターで、作者の作品ファンには問題なく受け入れられるだろう。
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