ぬり絵の旅  


 2012.10.9    日本中をぬりつぶす 【ぬり絵の旅】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

頭の中に日本地図を描き、その中で行ったことのある県を塗りつぶしていく。基本は男女の物語ではあるが、爽やかさや楽しさはない。日陰の愛というのか。若いころに一度だけ関係をもった二人が、8年の歳月を経て再び出会う。女は離婚間近とはいえ、不倫には違いない。そんな背徳感と、愛の先にはっきりとした希望が見えない状況であれば、なおさら陰鬱とした雰囲気になるだろう。日本中を旅行し、地図を塗りつぶしていくという作業は確かに興味深い。愛や恋というより、自分ならば日本地図をどの程度塗り潰すことができるか、なんてことを考えてしまう。人によっては、まったく塗りつぶせない場合もあるだろう。通過ではなく、滞在しなければならないというのがポイントだ。

■ストーリー

東京駅の地下道―そこで、岡島中彦は偶然、朋子と出逢った。八年、そう八年ぶりに再会した〈おとこ〉と〈おんな〉。それは同時に二人にとって〈ぬり絵の旅〉の再開でもあった…白地図をぬりつぶしていく旅、その旅の終着点に二人が見つけたものは、いったい何だったのか?

■感想
偶然再会する男と女。二人は過去に一度だけ肉体関係があり、その後8年の歳月が経過した。なんだか、ちょっとした昼のメロドラマのような始まりだが、男女間の恋愛の機微が細かく描かれているわけではない。旦那と離婚するつもりの女と、独身の男が再会し、その後盛り上がる。その恋には、明るさや健全さはない。どこか日陰の雰囲気があり、大人な印象が強い。日本の中で訪れたことのある場所を塗りつぶしていき、日本全国を塗りつぶすことを目指す二人。愛や恋という部分より、日本を旅するということに重点がおかれているような気がした。

8年ぶりに会う男女はどうなるのか。若い頃と違い、あからさまな喜びや情熱的なアピールはない。どこかひっそりと、冷静に大人として、気持ちを抑えているようにも感じられた。本作が大人の恋愛を描いているとは思えない。どこか人間味がなく、男女二人の心境が理解できなかった。地図を埋めるという作業にばかり目がいき、肝心なポイントを読み逃していたのかもしれない。許されざる恋という背徳感に満ちた物語であればわかりやすい。本作はそうではないところが、なんだか奇妙な印象をもった。

日本地図をすべて塗りつぶしてしまうと何が起きるのか。男が直面した結末というのは、まさに昼のメロドラマのような展開だ。お互い愛しあい、不倫を続け、日本各地を旅行するが、最後の最後である出来事がおきる。それは、物語の終結としてはうってつけのことだが、わりとありきたりだ。このオチで感動を引き起こそうという狙いがあるのかもしれないが、あまりに定番すぎて、冷めてしまった。物語のトーンが最初から落ち着いたものだったので、最後までその落ち着いたトーンを維持しながら、いつの間にか終わっていたという感じだ。

本作を読んで、誰もが考えることは、自分はどの程度、地図を塗りつぶせるかということだ。




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