残り全部バケーション  


 2013.8.31     裏家業コンビの面白物語 【残り全部バケーション】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者独特の奇妙な話が盛りだくさんだ。良い話というか、度肝を抜かれる状況に、平然と対処する登場人物たちに変な魅力を感じてしまう。5章からなる物語なのだが、1章の「残り全部バケーション」からとんでもない状況だ。家族の解散前に思い出として見ず知らずの岡田と旅行する。なんだかヘンテコな状況だが、受け入れてしまうのが面白い。

普通ではありえない状況なのかもしれないが、岡田が家族になじみ、軽快に語っているのが良い。裏の仕事を請け負う下請け企業の岡田。どうにも怪しいが悪い人物ではない。この岡田が他の短編でも重要な役割を担うのだが、裏稼業の人物にしてはのんびりしているというか、ほのぼのとし、心が温かくなる。

■ストーリー

人生の<小さな奇跡>の物語夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに人生、まだ、続いていくから。裏稼業コンビ「溝口」と「岡田」をめぐる全五章。

■感想
連作短編であり、そんなバカな!と思うこともすんなりやり遂げてしまう。「タキオン作戦」などはまさにそんな感じだ。父親から虐待を受けている子供を岡田が助ける話なのだが、できすぎている。未来からタイムスリップしてきた男から忠告し、父親に虐待をやめさせようとするのだが…。

岡田のタイムスリップを男に信じさせるまでの過程が面白い。架空の物質を作り上げ、タイムマシンが実現可能な世界と認識させる。ちょっとした騙しの物語なのだが、その騙しの流れが鮮やかで、きっちりとはまりこむ父親に、楽しくなってくる。

「検問」は、なんだかきな臭い流れでスタートするが、最後は意外な流れとなる。ある女を拉致した男たちは、検問につかまるのだが…。最初は??が付きまとうが、最後に納得ができる。女は誰の依頼で拉致されたのか。検問の目的は政治家襲撃事件だが、関係はあるのか。

岡田の仕事のパートナーである溝口が、独自の理論を展開し、検問を切り抜ける。普通に考えるとありえない状況ばかりが続いているのだが、それらを受け入れる溝口たちと、拉致された女の淡々とした会話が面白すぎる。

「小さな兵隊」は、まさに現代の岡田に通じる面白さがある。岡田という人物はどんな幼少時代をすごしたのか。問題児があるのなら、答え児がいても良いという、ヘリクツにも思える会話が面白い。父親に、実はスパイだと告白された少年から見た岡田の話なのだが、ここでもいくつかの仕掛けがある。

父親がスパイだと言う理由は、なんとなくだが想像できる。そこから、問題児岡田の行動まで、しっかりと紐づいている。心温まるというよりも、考えられた流れに驚いてしまう。

連作短編の面白さが凝縮されている。




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