2011.4.2 大どんでん返しを疑う流れ 【人形館の殺人】
評価:3
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■ヒトコト感想
マネキン人形が建物のあちこちに放置されている怪しげな洋館。今までのシリーズとくらべると一風変わってはいるが、いつもの雰囲気はある。ことの発端は、飛龍が何者かに狙われているということから始まり、洋館にまつわる出来事や、近隣で発生する児童連続殺人事件など、複数の要素が絡んでくる。飛龍のキャラクターが特殊であり、早くから飛龍を狙う者の存在が明らかになるので、自然と誰が飛龍を狙っているのかという犯人捜しがスタートする。早い段階で、すべての元凶について想像がついた。しかし、そうは言っても油断できないまま物語は進んでいく。最後の最後まで予想が外れるのか、当たるのか。島田が登場してきたあたりからは、もしかしたら大どんでん返しがあるのか?と思ってしまった。
■ストーリー
飛龍想一が京都、北白川に建つ「人形館」に越してきた時、驚天動地の終結(カタストロフィ)へ向けて秒読みは始まった。屋敷には父が遺した異形のマネキン人形たちが佇み、付近では通り魔殺人があいつぐ。そして彼にしのびよる姿なき殺人者。名探偵・島田潔の登場と奇矯な建築家・中村青司の影。
■感想
今回は外部と連絡が取れない孤立した洋館ではなく、ごく普通のアパートのような洋館となっている。そのため、ミステリ的な要素は弱い。日常生活の中で起こる不思議な出来事や、洋館に仕掛けがあるのではないかと思わせる事件なども起こる。飛龍のキャラクターが最初から普通ではない雰囲気を漂わせていたので、何か過去の出来事が大きく関係しているのだろうというのは簡単に想像できた。洋館に住む住人たちも、飛龍に負けず癖のあるキャラクターぞろいだ。盲目のマッサージ師など、ミステリの定番といえるキャラクターかもしれない。
飛龍を狙う怪しげな影。その存在が最初からクローズアップされており、否が応でも誰が飛龍に危害を加えようとしているかを予想してしまう。結果的には早い段階で予想したとおりの結末となるのだが、それでも引き付けられる魅力はある。物語は単純ではなく、二重三重にキャラクターの思いが変わっている。さらには連続して発生した児童殺害事件とどのような関係があるのか。飛龍を狙う者が男か女かもわからない、微妙にぼやけた書き方をしていたので、その時点で逆にすべての要素を排除し、一人のキャラに絞れたというのがある。
シリーズのお決まりどおり島田が登場し、事件を劇的に解決しようとする。今までのシリーズのパターンで読んでしまうと、最初の予想は外れたのか?と思ってしまう。島田が高らかに犯人を宣言し、読者からすれば島田は絶対に間違えたことを言わないと思ってしまう。最後は島田が解決するという先入観を持っているため、作者の策略にはまってしまうことだろう。悲しい物語には違いない。過去のトラウマと、現在の境遇、そして引きこもりに近い生活をしてきた飛龍だからこそ、島田に頼りたかったのだろう。本作の主役である飛龍の悲しさばかりが印象に残っている。
館シリーズではあるが、少し変わった雰囲気だ。
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