猫の事件  


 2012.6.19   アイデアを技術でカバー 【猫の事件】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者らしいショートショートだが、昔のような強烈なインパクトはない。作者のエッセイなどでは、アイデアが枯れてきたという話もあったが、本作ではまさにネタに苦労した感じがでている。物語のアイデアとして面白いが、オチがかんたんに想像できてしまう。または、オチに驚かない。今までの短編の切れ味鋭さに比べると、意外性や驚きが少ない。そうは言っても、熟練された技術によって物語に面白さを生み出している。強く心に残るというものではないが、何気なく思い出し、クスリと笑う程度だろう。作品の本質とは別に、作品の中に、作者の生活の変化がうかがい知れる部分があるのは興味深い。昭和の時代で年収700万のサラリーマンが平凡なサラリーマンというのはどうなのだろうか。

■ストーリー

楽して簡単にお金を手に入れる方法はないものか。子どもを誘拐して身代金。でも危険がいっぱいだ。ある時、オレはひらめいた。大金持ちのばあさんが溺愛している猫をさらって“猫質”にすればいい―表題作「猫の事件」をはじめ、随所に潜む巧妙な仕掛けに常識がひっくり返る全35編の傑作ショートショート集。

■感想
印象深いのは「地震恐怖症」と「不運なシャツ」だ。2作品とも最初にひとつのパターンを示し、その後、別のオチを用意している。ちょっとした揺れに慌てふためく男にあるアドバイスをした結果…。そのシャツを着ると必ず不幸な場面に遭遇するのだが…。主人公の思い込みとは別の結果になるという、王道パターンなので、先が想像できてしまう。ただ、そうであっても、その王道具合がなんだか楽しくなる。古き良きショートショートといった感じなので、哀愁のようなものすら漂っている。

「美しいお妃様の冒険」は、昔話のようでありながら奇妙だ。石を食べて生活する国があり、そこの美しいお妃様は、歳をとるごとに醜くなることに耐えられなくなり…。加齢と共に老いることに希望をもたせるような作品であり、昔は石を食べて生活していたという、奇想天外な流れが面白い。子供に、ちょっとした昔話として聞かせるには複雑だが、人の美的感覚は時代によって大きく変わるということを感じさせ、そして老いて醜くなることへの恐怖をなくす効果がある?のか…。

表題作でもある「猫の事件」は、さすがとしか言いようがない。身代金目的で、金持ちな一人暮らしのばあさんの飼い猫を誘拐し、まんまと金を手に入れたのだが…。誘拐までの行動を慎重に描いておきながら、最後は意外なオチとなる。本作を読むと、確かに子供を誘拐するよりも、猫の方が何倍も簡単だろうと納得できる。そして、完璧な計画を実行したので、警察にかぎつけられる心配はないはずだ。それが、誘拐相手が子供であればは注意するところを、猫だけに気にしなかったことが、ラストに繋がっていく。ひとつのアイデアで物語を作り上げている。

アイデア勝負なのは間違いないが、作者の技術でアイデア不足を補っている。




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