夏、19歳の肖像  


 2012.7.23   ミステリアスな青春物語 【夏、19歳の肖像】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ミステリーと青春物語が融合したような作品。若者らしい青臭い行動と、後先考えず突っ走る性格。入院中、偶然見かけた美女に一目ぼれし、そこからバイト先にまで入り込むその強烈な行動力。先が見えないまま、ひとときの幸せを求め行動する。青年をかきたてる熱量の元は何なのか。憧れの彼女が殺人を犯していたとしても、青年は進むことをやめない。この根拠のない自信というのが、若さの象徴かもしれない。終盤までは、まさに青春を楽しむ若者の物語でしかない。ミステリー的なオチはあるが、それがミステリーの面白さを表現しているわけではない。どちらかといえば、青春物語の面白さで物語が引っ張られているような感じかもしれない。

■ストーリー

バイク事故で入院中の青年が、病室の窓から目撃した「谷間の家」の恐るべき光景!ひそかに想いをよせる憧れの女性は、父親を刺殺し工事現場に埋めたのか?退院後、青年はある行動を開始する―。

■感想
バイクが趣味な貧乏大学生。まさに青春を謳歌するには十分な年代だ。偶然見かけた美女にひと目ぼれし、そこから熱い青春物語が始まる。始まりは多少ミステリー的な流れではあるが、運命の出会いからは、ちょっとした恋愛小説のような雰囲気すらある。一目ぼれした美女に対して熱を上げる男。ただ、青臭くカッコウつけたがる年代のため、自分の欲望を素直にだせず、プラトニックな関係を続けたりもする。本作の青春の熱さというのは、感情移入できるたぐいではないが、楽しさがある。

殺人事件を起こしたと思われる女に恋をする男。物語を通して、序盤と終盤以外では、事件についてはほとんど触れられていない。事件など存在せず、青春の甘酸っぱい恋物語が描かれているような感じかもしれない。相手の正体がわからないまま、恋に燃える男というのは、都合の悪いことには目をつむり、ある意味、現実逃避をしているような印象をもった。女の母親から目の敵にされ、まるで箱入り娘のような扱いをうける女を、助け出す王子のような気分なのか。見方によっては、つかの間の自由を味わう、ローマの休日の王女のような雰囲気かもしれない。

ラストには意外な展開が待ち受けている。女は本当に事件を起こしたのか。女を取り戻すために突然やってきたいかつい男たちと女の関係は?。強烈なインパクトはないが、ミステリアスな展開に引きこまれてしまう。青春物語の中で、ワクワクドキドキするような恋物語と、その先にある謎。無鉄砲で都合の良い考え方をする主人公ではあるが、なぜか応援したくなる。女との幸せな生活が続くとは思えず、また読者としてもそれを求めているわけではない。恐らく崩壊するであろう関係が、どのような形で結末を迎えるかが気になるだけだ。

ミステリアスな青春物語だ。




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