ナミヤ雑貨店の奇跡  


 2012.7.16   神の意思を感じる奇跡 【ナミヤ雑貨店の奇跡】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

人の悩みを解決する不思議な雑貨店。連作短編である本作は、全てを通して読んでこそ面白さがわかる。短編を一つだけ読んでも、その仕掛けはわからない。恐らく作者は、最初から全てを想定して描いていたのだろう。時系列が複雑に交錯する物語であり、しっかりと整理して読まないと混乱する可能性がある。ナミヤ雑貨店を中心として、時空のゆがみが発生する。だれが悩みに答え、悩みを相談したのは誰なのか。物語が進むにつれて、人の出会いの絶妙な繋がりに驚くことだろう。悩み解決という手法をとりながら、過去から現在へ、神の意思を感じさせるような奇跡が起こる。個別の悩みについては、それほど感じることはないが、読み終わった時、構成の複雑さに驚くことだろう。

■ストーリー

夢をとるか、愛をとるか。現実をとるか、理想をとるか。人情をとるか、道理をとるか。家族をとるか、将来をとるか。野望をとるか、幸せをとるか。あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店。しかしその正体は…。物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。

■感想
ナミヤ雑貨店で悩み相談がスタートする。その方式は「生協の白石さん」的な方法で、どんな相談に対しても答えをだすというスタンスだ。短編を順に読んでいくと、ナミヤ雑貨店は何か不思議な力があるというのはわかるが、それが特別な出来事を引き起こすとは想像できない。偶然空き家となったナミヤ雑貨店に迷いこんだ男たちが、時空を超えて、過去の悩みに答えていく。悩みに答える側が、悩みを相談する側の時代から現在までを知っているので、的確なアドバイスができる。その程度の不思議な話で終わるシリーズかと思っていた。

悩みは多種多様だ。オリンピックか恋人をとるか。ミュージシャンの夢を諦めるべきか。金を手に入れるために水商売を続けるべきか。それらの悩みに対して答える側の言葉は辛らつであり、直球だ。ナミヤ雑貨店で巻き起こる不思議な物語として終わるのならば、問題ない。本作がすごいのは、そこから、現在へ続く物語があるということだ。悩みを抱えていた人たちには、不思議な繋がりがある。それは悩みに答えていた側も同様だ。偶然を超えた、神の何かを感じずにはいられない流れは、作者が最初から考えていた構成なのだろう。

悩みに感情移入できたり、すべての悩みが良い方向へ解決されているわけではない。辛い結末や、残酷な結果もある。特に印象深いのは、両親が夜逃げをしようともちかけた中学生の物語だ。辛い中にも未来に対する希望がある。それが現代になり、ナミヤ雑貨店との繋がりが消えることはない。それぞれの短編では、無関係と思われる人物が、実は別の短編で重要な意味をもつ。全てを読み終わると、この物語のすばらしさに気付くことだろう。

不思議な出来事の答えを求めるのではなく、その物語を楽しむ心が必要だ。




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