なくもんか


 2011.7.13  シリアス路線に笑いが融合 【なくもんか】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
おもしろい。何が面白いかって、小ネタが面白い。ストーリーとは別に、細かい部分で笑わせようとしている。別になくても良い部分に笑いを組み込んでいる。ストーリーはスピード感があり、物語はジェットコースターのように進む。悲惨な境遇であっても、どんなに深刻な場面であっても、ちょっとした笑いが入る。出演する俳優たちも、それを意識してか、あえて不自然な無表情であったり、深刻な場面でおかしなことをしたり。緊張と緩和のバランスがすばらしい。これはシナリオと演出が良いのだろう。まだ見ぬ弟との再会や、捨てられた父親との再会など、深刻すぎる状況であっても、笑えてくる。極めつけは秘伝のソースが、実は市販のソースよりまずいというくだりだ。すべてを根底からくつがえす面白さがある。

■ストーリー

幼い頃、無茶苦茶な人生を送る父(伊原剛志)に捨てられ、生き別れた兄弟がいた。不幸な生い立ちの兄・祐太(阿部サダヲ)と弟・祐介(瑛太)だが、“なくもんか”とばかりに笑顔で、毎日を生きている。しかし、二人はまだ、お互いの顔も名前も知らない―

■感想
むちゃくちゃな父親に捨てられ、そのトラウマから笑うことしかできない祐太。他人の店の居候から出世し、あとを継ぐことになり、そこから大きく人生が変わっていく。細かな描写が面白い。超デブの店の娘や、近所のしょうもない者たち。店に代々伝わるハムカツのソースが、実は市販の安いソースよりもまずかったという衝撃。くそマジメに面白いことをやりつくし、場面に生じる緊張と緩和がすばらしい。深刻な場面が始まったかと思うと、とたんに次の瞬間笑いが波のように襲いかかってくる。ストレス解消のため実は女装してましたなんて、面白すぎるだろう。

普通に考えるとあまりに衝撃的な出来事のはずが、さらりと過ぎ去ってしまう場面がある。まるで何もなかったかのように、平穏な日常が訪れる。すべてが笑いをベースにしていながら、ストーリーの本筋はあくまでもシリアス路線だ。生き別れた父親と、早死にした母親。母親のお腹の中で、その存在すら知らないままだった弟の存在。売れっ子芸人になった弟と、それにつけ込むように突然現れた父親。帰ってきた店の娘と結婚したはいいが、実は二人の瘤つきだ。こんな状況はありえないというほど、不幸のオンパレードだが、それを感じさせない笑いの要素がある。

シナリオと演出が良いのだろう。人の良い裕太が濡れ衣を着せられたり、いつの間にか素人のくせにお笑い芸人としてステージに立っていたり。フィクションとわかっていながら、この物語を見ていると、不幸な境遇に同情し、それを乗り越える笑いのパワーに元気付けられる。テンポが良いこともあいまって、サクサクと進むストーリーに心地良ささえ感じてしまう。これが、シリアス路線で、ストーリーもゆっくりと進んでいたなら、到底笑いを楽しめないだろう。このスピード感が重要だと思う。

予想外に楽しめる作品だ。



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