水に眠る  


 2011.10.11  ”大人”な恋愛短編集 【水に眠る】

                      評価:3
■ヒトコト感想
ジャンルとしては恋愛小説になるのだろうか。直接的な愛の描写はないが、心の中に絡みつくような雰囲気がある。身体がむず痒くなるようなシーンはないが、登場人物のちょっとした仕草や行動から、心の奥底まで染み渡るなんとも言えない愛を感じることができる。淡々とした中に、なんでもない日常に、ふとした恋愛の空間がある。コテコテの恋愛小説より、本作の方が好みだ。謎は謎のまま、先行きすらもはっきりと示しさずに、あとは読者の想像にまかせるような展開。登場人物たちは、必ずしもそうではないが、物語から感じるのは”大人”な雰囲気だ。なんでもかんでも結果がはっきりでないと気がすまない人には向いていない、大人の作品かもしれない。

■ストーリー

見合い話に苛立ち、後輩の若さがふと眩しい美也子の淡々とした日々に鳴り響く謎の電話。そして一年が過ぎて…「恋愛小説」。同僚に連れていかれた店で飲んだ水割りの不思議な味。ある切ない夜、わたしはその水の秘密を知る…「水に眠る」。人の数だけ、愛がある―様々な愛の形を描く短篇集。

■感想
恋愛小説の範疇にはいるのだろうが、巷にあふれる愛だ恋だと騒ぐ物語ではない。どの短編もふんわりとした中に、気をつけないと気付かないほどわずかな恋愛要素が組み込まれている。好きだ嫌いだを言葉にするのではなく、微妙な態度で表現する。わかり難いかもしれないが、ちょっとした仕草から感じる雰囲気というのは、その仕掛けに気付いたときには強烈に心に残る。物語の空気感というのだろうか、ガツガツした積極的な態度ではなく、ぼんやりとしているが、相手にしっかりと自分の言いたいことを伝える、そんな感じだ。

表題作である「水に眠る」は、切なさの中に、なんだかわからないが元気な気持ちになる。恋愛なのか何なのか、モヤモヤとした気持ちのまま読み終わると、美しい物語を読んだという気持ちになる。水割りの水に秘密があるというくだりが、主人公の心にどんな影響を与えるのか。なんのオチもない物語のように思えるが、物語全体を通して透き通った水のような美しさを感じることができるだろう。それはおそらく作者の文体と、登場人物の性格にあるのだと思う。

印象深い作品は多数あるが、「植物採集」こそ、どうして良いのかわからない恋愛のなんとも言えない気持ちをうまく表現している作品ではないだろうか。興味はあるが、好きなのかわからない。相手のことが気になりつつも、どうすれば良いのかわからず、その結果、ヘンテコな行動にでる。回りくどいことこの上ないが、これが大人の恋愛なのだなぁと感じてしまう。主人公が女性なので、共感できる女性は多いだろう。主人公の意味のない行為がむしょうに面白くなり、恋とまではいかないまでも、微かに芽吹いた恋の芽をもてあましているように感じた。

作者の文体と、ほんわかとした登場人物たちが美しい物語を作り上げている。




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