御手洗潔のメロディ  


 2013.9.18     御手洗とはどんな人物か 【御手洗潔のメロディ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

御手洗潔を中心とした短編集。石岡は当然として、過去の作品に登場したレオナが再登場するなど、御手洗潔シリーズファンにはうれしい短編集だ。御手洗潔の能力の高さがこれでもかとアピールされている作品ばかりなので、御手洗好きにはたまらないだろう。

学生時代の御手洗の物語もあるが、いつものとおり、現在の御手洗と変わらず、未来が予言できるかのような推理と、もったいぶりながら結論を先延ばしにするスタンスは変わらない。ミステリー一辺倒ではなく、心の中がホンワカするようなハートウォーミーな物語もある。石岡と御手洗の関係の強固さと、御手洗の交友関係の広さなど、長編作品ではうかがい知れない部分も描かれており、ファン必読の短編集だろう。

■ストーリー

「神の暗号だ!」消えた謎の美女と店で頻発する便器盗難事件。奇妙な出来事の想像を絶する接点(「IgE」)。看板に集中した弾痕。ハーヴァード大時代の天才的推理を発掘(「ボストン幽霊絵画事件」)。名探偵の秘めた素顔が深く心を打つ「SIVAD SELIM」「さらば遠い輝き」。御手洗の現在と過去、本格の未来を照射する事件簿。

■感想
「IgE」は強烈に御手洗のすごさをアピールしている。まったく関係ないと思われた二つの出来事が、実は裏でつながっていた。レストランの便器が頻繁に盗難される事件と、偶然知り合った美女が突然消え去る事件。二つの出来事につながりがあるとは思えない。が、御手洗は早い段階から、そのつながりを発見する。

相変わらず御手洗ひとりが行動し、指示を受ける石岡は読者と共に何も知らされないまま。なぜ御手洗はこれほど未来を予見できるのか。不可解な推理の要因も、最後にしっかりと説明されているので、消化不良感のないすばらしいミステリーだ。

「ボストン幽霊絵画事件」は、学生時代の御手洗が奇妙な殺人事件を解決する。御手洗の学生時代は若干初々しさはあるが、それでも強烈な押しの強さと、圧倒的な推理力がある。もったいつけて結論を先延ばしにするのはいつもどおり。

ミステリーとしての不可解さは並みだが、御手洗が事件解決のヒントを提示した後、また別のあらたな結末が登場するパターンだ。基本的に御手洗の推理としては正しい。が、その先にあるのは、事件の根本原因としてちょっと心温まるストーリーだ。

「SIVAD SELIM」や「さらば遠い輝き」は、有名人と御手洗やレオナが絡むという一風変わった物語だ。そして、ミステリーの要素はほとんどない。御手洗が事件を解決するのではなく、その能力の高さや特殊な人脈がこれでもかとアピールされている。

この短編を読むと、御手洗とはいったいどんな人物なのかわからなくなる。有名ミュージシャンと知り合いになるほど、音楽の才能があり、学者としてノーベル賞の候補になるくらいの実績を残す。かと思えば、横浜でうだうだと日々を過ごす。このギャップの大きさが魅力なのかもしれない。

御手洗のキャラがより確立される短編集だ。




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