未来を生きる君たちへ


 2013.1.16    人は暴力から抜け出せないのか 【未来を生きる君たちへ】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
非常にいろいろな要素がつまった作品だ。暴力に対向するために、暴力で報復するのは哀れなことだというメッセージと。そうは言っても、結局は暴力の連鎖を止めることができない人間の無力さ。イジメられっ子のエアリスがクリスチャンと出会い、クリスチャンの度を越えた暴力により、イジメから抜け出すことになる。知的で勇気あるクリスチャンの行動は、ある一面では正しいように見えるが非常に子どもらしい危うさを内在している。エアリスの父親がアフリカの地の紛争地域で感じたやるせない思いというのが、子どもたちの生活にも影響を与えてくる。暴力の連鎖は、決して幸福を生むことはない。それをわかっていながら、人間は暴力から抜け出すことができないのだろう。

■ストーリー

デンマーク、郊外―。学校で執拗なイジメに遭うエリアスは、医師としてアフリカの難民キャンプに赴任している父親アントンが心の支えだ。ある日、エリアスのクラスに転校生のクリスチャンがやって来る。クリスチャンのイジメっ子への復讐に救われたエリアスは、彼との距離を急速に縮める。アフリカ、紛争地帯―。アントンは、自身の離婚問題や毎日のように搬送される瀕死の重傷患者に苦悩していた。そんな時、“ビッグマン”と呼ばれる男が大ケガを負ってキャンプに現れる。彼こそが子供や妊婦までをも切り裂くモンスターだった。

■感想
いじめられっ子のエアリスを助けるクリスチャン。その助ける方法が、不意をついた暴力であり、二人はそれを正義だと感じている。別の場面では、アントンが狂暴な男に、言い合いの末殴られる。それを見た子どもたちはやり返せと言うが、アントンは何もしない。暴力の連鎖は不幸を生むと子どもたちに説明するアントン。そして、アフリカの地では、子どもや妊婦を切り裂くモンスターであるビッグマンが患者としてアントンの目の前にやってきた。暴力に対して何で対向するのか。暴力の連鎖を断ち切るためにしなければならないことは何なのか。非常に考えさせられる物語だ。

アントンの苦悩と共に、エアリスやアントンの妻も心の中に闇を抱えている。さらには、クリスチャンさえも、母親の死をきっかけとして拭い去ることのできない父親への不信感を持ち続ける。暗く陰鬱な雰囲気だ。アントンの立場になって物語を考えると、非常に辛く苦しくなる。何が正解かわからない世の中であっても、ひとつだけ確固たる信念をもち行動することがある。アントンのスジの通った考え方というのは勇気がわいてくるが、それでも、暴力の連鎖を断ち切れないやるせなさというのは、画面からヒシヒシと感じてしまった。

強烈な場面がめまぐるしく登場し、物語から目が離せない。次はどうなるのかというドキドキ感が終始つきまとう。うまくいかないだろう計画を子どもたちが話し合っているのを見ると、暗黒の未来が見えるようで、悲しみと恐ろしさがわいてくる。親と子の関係の難しさが物語として浮かび上がっており、親としてどのように対処すべきかという命題をつきつけられたような気がした。子を持つ親であれば、何か感じることがあるだろう。はっきりとした答えを示しているわけではないが、心の中ではボンヤリと導き出した答えがある。

複雑な親子関係を感じることができれば、目が離せない作品となることだろう。



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