2012.6.24 想像するのが怖い 【深泥丘奇談】
評価:3
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■ヒトコト感想
奇妙な連作短編集。深泥丘病院で巻き起こる奇妙な出来事。「悪霊憑き」以外はミステリーの要素は少ない。何か得体の知れない出来事が起こり、それが主人公の妄想なのか、それとも現実なのか。限りなく作者に近いキャラクターらしい本作の主人公は、確かに作者のイメージそのままだ。「私」が経験する奇妙な出来事は、明らかな恐怖というよりも、人の想像力を刺激する恐怖が多い。人の言葉で発音が難しい、水にまつわる悪霊を「****」なんて表現したり、恐怖を連想させる仕掛けがある。本作の中で唯一のミステリーである「悪霊憑き」は、今までの流れから悪霊関係と思わせておきながら、意表をつくミステリーだ。連作というイメージがあるだけに、騙されてしまった。
■ストーリー
京都の奥には、何かが潜んでいる・・・。深泥丘病院の屋上で見た幻鳥、病院の地下へと続く階段、痛む歯、薄れゆく街の記憶・・・作家である「私」がみた日常が一瞬にして怪談に変わるとき、世界は裏の顔を表す!
■感想
「サムザムシ」は恐怖というよりも、都市伝説や田舎にまつわる逸話のような雰囲気だ。虫歯に悩む「私」が妻の実家で奇妙な体験をする。サムザムシというものがいったいどんなものなのか、頭の中でイメージしたのは、小さなムカデのような虫だ。そんな虫が口の中を動き回るなんて、考えただけで寒気がする。稀に作者は人の神経、特に昆虫や虫のたぐいの気持ち悪さを表現するときがある。そんな虫の表現と、何度治療しても、たびたび虫歯になると悩む中で思いついた物語なのだろうか。
「開けるな」は、定番の流れかもしれない。開かずの扉があり、それを開けた時の恐怖の記憶が頭にある「私」。あるとき、偶然古い鍵を手に入れて…。開かずの扉というのは、何が飛び出してくるかわからないという恐怖がある。前半部分で、扉を開けることの恐怖を嫌と言うほど刷り込み、後半では謎の鍵の登場から、同じ出来事に遭遇するという流れになる。開かずの扉からいったい何が出てくるのか。恐怖の元凶にばかり気をとられてしまうが、この最後のオチはずっこけるが面白い。ある意味、発想の転換だ。
「深泥丘魔術団」は、魔術というそれだけで奇妙さを表現できるものが、さらに深泥丘病院という場所で行われるとあって、恐怖感は増している。奇術自体がありえないことだが、人の体が分裂したり、人が消失したりとタネがあるにしても、奇妙さを売りにしている。それが作者にかかると、タネなしで魔術(手品)をしようとする。ある意味衝撃的かもしれない。タネなしで上半身と下半身が分裂するなんてことを実現するには、どうすればいいのか。そんな異常な考えを物語にしてしまう作者はすごい。
連作短編というのが、恐怖を増幅させている。
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