待っている男  


 2012.6.11   男と女の怪しい物語 【待っている男】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

男と女の怪しい関係を描いた短編や、ちょっとしたミステリ風な事件が発生する短編など、作者の得意な物語がつまっている。特に、男女の痴情のもつれがらみの短編は、面白さが際立っている。本作に限れば、ユーモアよりも恐怖の方が強いかもしれない。得体の知れない恐怖や、昔なつかしの「あなたの知らない世界」的な恐怖がある。中にはトリックを予想できるものもあるが、それでもジワジワと伝わってくる恐怖はある。時代を感じさせる描写もあるが、それよりも、物語として作りこまれた構成により、人をひきつけるパワーがすさまじい。作者のその他の名作に負けないだけの力はある。作者の作品を読み慣れている人であれば、何も感じないかもしれないが、初めて読む人は、衝撃を受けるかもしれない。

■ストーリー

人は人生において、3回真剣に待つことがあるという。いつ来るか。いつ来るか―。男を待っている女がいる。女を待っている男がいる。大人の男女の微妙な駈けひきと打算。そこに、男と女の妖しい関係が見えてくる。不気味な恐怖とユーモア。

■感想
表題作の「待っている男」は印象深い。ある喫茶店で人を待つ男がいる。その男と会話が続くのだが…。本編の内容よりも、男が語る、待つ理由というのがやけに印象に残っている。20分以上相手を待つのは、男の場合は、肉体関係を持つ前であり、女の場合は、肉体関係を持った後であるらしい。確かにうなずける分析だ。男が待つ理由を語る間に、しだいにそこに隠された陰謀が明らかとなる。携帯電話が当たり前になった現在では、味わうことのできない、”人を待つ”ということを題材にした面白い作品だ。

「紙の女」は奇妙な恐ろしさがある。ある設計技師が、酔って家に帰るとそこには見知らぬ女がいた…。二次元を三次元に頭の中で変換する仕事をする男だからこそ、経験する現象なのだろうか。ちょっとしたSF風であり、良質なホラーでもある。自分がどの時間軸にいるのかなどを考えてしまい、深く考えるとその矛盾にも気付く。しかし、奇妙な恐怖感というのは後を引き、心の奥底にいつまでも残っている。ある衝撃的な場面を頭の中に想像したら、恐怖で鳥肌が立ってしまった。

「ありふれた誘拐」は、最後に驚かされた。ある男が、路上の占い師に誘拐に注意と言われる。子供のいない男は誘拐される覚えなどなく、妻の誘拐を疑うのだが…。読者は主人公の男と同じく、どこで誘拐事件が発生するのかを考える。絶対に何かが起こるという確信はあるのだが、その兆候は感じられない。男自身の誘拐では?と考えるが、それも違う。最後に驚きの誘拐が発生するのだが、それまでの流れを読めば、連想できたのかもしれない。作者得意の男女間のもつれを描き、さらには誘拐という材料をうまくつかった作品だ。

作者の作品を初めて読む人は、衝撃を受けるだろう。




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