まじめ半分  


 2012.5.13   古いエッセイの楽しみ方 【まじめ半分】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者の面白エッセイ。古い作品であり、作者自身が戦争経験者ということで、今読むと違和感をおぼえる部分もある。それでも、古今東西色あせない部分というのはある。作者が描くエッセイは、その当時は最新のものかもしれないが、今読むと古すぎて変に笑えてくる場面がある。印象的なのは、作者が初めてビニ本(ビニール本)を手にしたくだりだ。自分もほとんど知らず、かなり過去の遺物なのだが、その描写が面白い。内容を読んでいけば、ビニ本がどんなものかがわかってくるのだが…。作者のブラックなユーモアとあいまって、自分が生まれていない時代の話であっても、楽しく読むことができる。逆にその時代を知らない人こそ読むべきかもしれない。

■ストーリー

結婚披露宴でのジョークを一つ。「夫婦円満のコツは、相手をほめることです」というスピーチを聞いて、花嫁がその夜ベッドの中で早速実行したそうだ。「あなたって上手ね」と。阿刀田高の渾身のエッセイ集。

■感想
時代を感じさせる面白エッセイがある。作者の捻りのきいたコメントや、作者が経験した出来事は当然過去の出来事としての印象が強い。が、それでも色あせない面白さがある。およそ40年以上前のエッセイなのかもしれないが、ためになる部分もある。”やきもち”の言葉の由来や、日本語教師として必要な資質など、勉強になる部分がある。さらには、今まで小説作品ではわからない、作者のプライベートな部分が垣間見えるのは良い。作者がテレビ番組の司会をやっていたなんてのは、一番驚いた部分だ。

戦争を経験した作者だけに、食べ物についてのエッセイはなんだか微妙な面白さがある。作者自身は、当時は大真面目に書いたのだろうが、今読むと違和感ばかりだ。夕食のメニューを奥さんに聞かれ、答える部分で、作者が答えたメニューというのが、いかにも昔の人が好んで食べそうなメニューばかりだった。そこに肉が登場しないのは、時代のせいだろう。チョコレートが貴重であったり、食堂で食事をする料金が何十円であったり、たかが40年前のはずなのに、はるか昔の教科書の中の生活のように感じてしまった。

古くなったとしても、良いものは良い。短編の名手として、作者がどのようなスタンスで作品を作り上げてきたのか。当然、パソコンやワープロなんてものがあるはずもなく、すべてが鉛筆で原稿用紙に手書きとなる。古くちびた鉛筆をどのようにして再利用しようか、なんてことは、今の作家では絶対にでない発想だろう。古き良き時代。バブルよりもさらに前の時代なので、浮かれた気分もなければ、貧乏まっしぐらというわけでもない。読めば、当時のごく普通の生活が頭の中いっぱいに広がるだろう。

古いエッセイというのは、また違った楽しみ方がある。




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