迷子の警察音楽隊


 2012.3.21   宗教の壁をこえた交流 【迷子の警察音楽隊】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
気まずい空気感が物語り全体にただよっている。エジプトの音楽隊が、イスラエルに招かれるということも驚きだが、そこで迷子となり、見知らぬ地元の人の家で一泊させてもらうという流れも衝撃的だ。アラブ系とユダヤ系というのは水と油のように思っていたとおり、その雰囲気が随所に感じられた。しかし、物語はそんな宗教的側面を吹き飛ばすような、ノンビリとした暖かさがある。それぞれが戸惑いながら、地元の人たちと交流する。ある者はデートに紛れ込み、男にアドバイスをする。またある者は、食堂の女主人に夜の街へと引っ張りだされ戸惑う。アラブとユダヤの対立はどのようなものかあまり認識していない。しかし、一般人たちにはそんな宗教の壁を越える交流がありえるのだと思えてきた。

■ストーリー

文化交流の為イスラエルに招かれてやってきたエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊。何故か空港に出迎えは無く、自力で目的地に辿り着こうとするうちに、彼らは一文字間違えてホテルすらない辺境の町に迷い込んでしまう。そこで、食堂の美しい女主人に助けられ、地元の人の家で一泊させてもらう事に。でも相手は言葉も宗教も違い、しかも彼らアラブ民族と長年対立してきたユダヤ民族。空気は気まずく、話しは噛み合わない。国を越えて愛されてきた音楽の数々、それらが彼らの心を解きほぐし・・・

■感想
文化交流ということで、宗教的な対立関係にある国へとやってきたエジプトの音楽隊。そこで迷子となり、地元の人々の家に一泊させてもらうことになる。お互いの戸惑いというのが、画面からジワジワと伝わってくる。泊める方も気まずければ、泊めてもらう方も気まずい。そこには、宗教的な問題よりも、見ず知らずの人の家に突然お世話になることへの戸惑いに近いかもしれない。音楽を通して異なった文化の人々と仲良くなるなんてのは、そんなにかんたんなことではない。気まずさを音楽で打ち消そうとすることが、逆に痛々しく感じてしまった。

終始へんな気まずさが流れ続ける本作。ただ、デート慣れしていない男のデートに紛れ込んだ話は面白い。女とデートしたことがなく、何をしていいのかわからない男。それを音楽隊いちのナンパ男が指導する。むちゃくちゃなようだが、気まずさを超えた心温まる場面だ。思わずニヤリと笑いがこみ上げてくる。堅物ぞろいの音楽隊の中で、このナンパ男だけが異才を放っている。女主人に誘われて、夜の街へとくりだした音楽隊の隊長は、どんなに誘われたとしても、朴念仁のようにひたすら気づかないフリをする。

音楽隊の面白さは、気まずさの中に笑いの要素があちこちにちりばめられているということだ。自分が音楽隊の立場だったら、なんてことはまず考えることはないだろうが、それでもこの気まずい一晩というのは針のむしろだろう。そこから解放された朝の爽やかさとういのが、状況の困難さを表しているようだ。短くコンパクトではあり、宗教の壁をこえた作品といえなくもない。日本人としては、あまりそのあたりの対立を意識しないので、本作の画期的な部分には気づき難いのかもしれない。

この気まずい空気感というのは、なかなか強烈だ。



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