真昼なのに暗い部屋  


 2013.4.9     男は不愉快になる? 【真昼なのに昏い部屋】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

普通の夫婦に、アメリカ人のジョーンズが入り込み、家庭が壊れる。誰もが想像するドロドロとした不倫物語ではない。三人称で描かれ、なおかつ”ですます調”なため、妙に丁寧で奇妙な印象をうける。浩を愛しているはずの美弥子が、だんだんとジョーンズに惹かれていく過程は、読んでいて苦しくなる。

どうしても浩目線で読んでしまうので、美弥子の行動が許せなくなる。それと共に、美弥子が感じる夫の奇妙な行動というのは、安定した家庭を持った男がやりがちな行動なだけに、ドキっとする。浩の行動の積み重ねが、美弥子を不倫に動かしたのか。作中ではそんな描写はなにひとつないのだが、男目線で読むと、そう思わずにはいられない。男と女でかなり印象が変わる物語だろう。

■ストーリー

軍艦のような広い家に夫・浩さんと暮らす美弥子さんは、「きちんとしていると思えることが好き」な主婦。アメリカ人のジョーンズさんは、純粋な彼女に惹かれ、近所の散歩に誘う。気づくと美弥子さんはジョーンズさんのことばかり考えていた―。恋愛のあらゆる局面を描いた中央公論文芸賞受賞作。

■感想
ごく普通の夫婦である浩と美弥子。夫がテレビに夢中になり、妻の問いかけに対してあいまいな答えをするなんてのは、よくある現象だろう。作中では、そのことを不思議に感じる美弥子、という流れで描かれている。

男の自分が本作を読むと、作者の、世の男たちに対する不満がそのまま美弥子の疑問として表現されているような気がした。会話しながら、自分の言いたいことだけを言い、あとは頭の中から消え去ってしまう浩。もしかしたら、自分も同じようなことをやっていないかと、思わず自分の生活をふり返ってしまった。

美弥子が問題のない生活を続ける中で、ジョーンズの存在が急に大きくなる。美弥子とジョーンズにはやましい関係は一切ない。が、フィールドワークと称して、二人で二時間も散歩をするというのは、たとえ何もないとしても、夫としては良い感じはしないだろう。

美弥子の純粋で曇りのない考え方。何もやましいことがないから、何をしてもよいというのは違うような気がした。どうしても男目線で考えてしまうのだが、美弥子側には非難されてもしょうがない理由がたくさんあるような気がしてならない。

作品から感じるメッセージは、男の自分としたらちょっと微妙な気分になる。妻のことを真剣に考えない夫が悪い。妻を失いかけて真剣になったとしても、後の祭り。すべてをなかったこととして、普通の日常に戻ろうとしても、そうはうまくいかない。なんだか、男だけが非難されているように感じてしまった。

本作を女性が読むとどう感じるのだろうか。男がすべて悪く、妻にはいっさい非はないと感じるのか。それとも、ジョーンズとの心満たされる関係にうらやましく感じるのだろうか。女性の心境が知りたくなった。

男からすると、なんとも不愉快な印象を抱かせる作品だ。




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