2013.2.9 想像力を刺激する恐怖 【恐怖同盟】
評価:3
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■ヒトコト感想
タイトルが一文字で表現される恐怖短編集。直接的な恐怖というよりも、ジワジワと後から恐怖がわいてくるような作品ばかりだ。頭の中でくりひろげられる恐怖の風景。幽霊や物の擬人化、妄想や、生きている人間の身勝手な考え方など、恐怖のパターンは様々だ。具体的な殺人をそのまま表現している作品は少ない。童話であったり、人の心の動きや妄想で恐ろしい結末を連想させる描き方をしている。強烈なインパクトはないのだが、シチュエーションを想像すると恐ろしくなる。「道」だけがハードボイルド風の殺し屋が主人公の作品なのだが、直接的な表現はあるにもかかわらず一番恐ろしくないという皮肉な結果となっている。やはり恐ろしいのは人の想像力なのだろう。
■ストーリー
恐怖は人間の最も古くからの感情だと言われている。真っ暗闇の中で野獣に襲われる恐ろしさを想像してみれば、容易に納得がいく。―頭をガンと殴られるような恐怖、気がつかないうちにじわりと効いてくる恐怖、ノドに刺さった小骨のようにしつこい恐怖、etc…悪夢と狂気のブラック・ワールドを描かせては当代随一の筆者が贈る連作恐怖小説集。『顔』『血』『鳥』『家』『耳』『疣』『妖』『雲』『道』『老』の10篇。
■感想
「耳」は、誰もが知っている「足ながおじさん」をモチーフとした作品だ。孤児院で生活する少女は妄想の中で自分に足ながおじさんが現れると考える。そして、それが現実となったはずが…。少女が夢見る状況と現実との乖離。手紙形式で少女の告白がだんだんと変わっていくところが恐ろしい。そして、最後には少女自身がおぞましい存在となり、孤児院から美しい男の子を呼び寄せることとなる。夢も希望も打ち砕かれた状況というのは恐ろしすぎる。状況の変化が手紙で伝わるというのが、さらに恐ろしい。
「疣」は、終電を乗り越した男が怪しげな宿屋で経験した奇妙な出来事を描いている。見た目がまったく同じ仲居や旅館の番頭に出会う。そっくりさんのレベルを超えた存在に恐ろしさを感じつつ、自らの存在が希薄になっていく瞬間。自分とそっくりな人間に出会うと、人はどのような行動をとるのか。それまでの伏線がきいており、ただのそっくりさんではないと思わせる流れがある。強烈なインパクトはないとしても、想像するとうっすらと恐ろしくなる。自分には心当たりはないが、会う人会う人みんなに、何か変わったと思われるほど怖いことはない。
「妖」は、物に魂がやどり、こたつ目線で語られる物語だ。女子アナが生活するその部屋に存在するこたつ。こたつは女子アナの赤裸々な生活を眺めるのだが…。部屋の中の物が擬人化され会話する。電話やテレビなど、それぞれの特性によって変わってくるのだが、それよりも物たちの嫉妬がなんだかやけに恐ろしい。普段生活する部屋の物に魂がこもっているなど、とても考えられることではないが、本作を読むと、ふとした時、物に魂がやどっているかも、と思ってしまう。ある種の異常な状況かもしれない。
恐怖の種類は様々だが、人の想像力を刺激する描き方をしている。
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