空中ブランコ  


 2011.4.25  すべてがどうでも良くなる治療 【空中ブランコ】

                      評価:3
奥田英朗ランキング

■ヒトコト感想

このシリーズの定番はトンデモな精神科医である伊良部とミニスカートの看護師だ。悩み苦しむ患者たちに治療と思えない治療をする。ただ、太いビタミン注射を打つだけなのだが、いつのまにか患者たちは快方へと向かっている。反面教師的なのかなんなのか。気付けば患者が自分の力で病気を克服するというのが、このシリーズのパターンだ。本作の面白さのポイントは、悩みの特殊性と、それに苦しみながら右往左往する患者の行動だ。伊良部の破天荒な行動も面白いが、その職業では絶対にあってはならない病に犯される患者というのが一番だろう。何か勇気をもらうだとか、元気になるというたぐいの作品ではない。ふとしたきっかけで全快する患者たちの行動をなぞるのが楽しいのだろう。

■ストーリー

伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?

■感想
伊良部が医者らしいことを何一つしていないのはいつもどおり。患者の悩みを解決するために、意図的な行動かと思いきやそうではない。自分が思うまま、欲望のおもむくままに行動する伊良部に触発され、いつのまにか悩みが解決しているというパターンばかりだ。特殊な伊良部のキャラクターはあいかわらずで、常にビタミン注射しか打たない。この定番の流れの中で、ちょっと変わった悩みを持つ患者たちが、伊良部と関わるうちに、症状が緩和していく。患者たちの多彩な悩み、特に職業的に特殊な悩みというのが面白さの大きな要因だろう。

表題作でもある「空中ブランコ」もそうだが、基本的にすべてが患者の精神的な悩みだ。そこに、悩みなど一切ないような伊良部が好き勝手な行動をとると、悩んでいることが馬鹿らしくなってくるのだろう。すべてがこのパターンだと言って良い。必ず相手の職業に深く入り込み、自分もやってみたいと騒ぎ出す伊良部。迷惑この上ないが、唯我独尊状態というのが、悩み苦しむ現代人にはない、伊良部ならではの特徴だろう。悩みすぎる人は繊細なのだろう。伊良部のようになれば、人生楽しく生きられるという作者のメッセージのようだ。

精神的に病んだ患者たちがとる行動が面白い。自分が病気だと知らず、他人に責任を押し付けたり、病気だとばれないよう必要以上に他人の目を気にしたり。さらには、絶対にやってはいけないことをやってみたくなる。それらすべてを伊良部がタブーをぶち破るように、引っ掻き回す。この伊良部の破天荒な行動がすべてをめちゃくちゃにし、患者たちを何もかもどうでもよいような気分にさせ、すべてをリセットする。もしかしたら、こんな精神科医はありえないが、ものすごい名医なのではないかと思ってしまう。

深刻な表情で悩みに共感する医者より、伊良部のような医者の方が良いのかもしれない。




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