2011.5.4 事件の真相とトリックの違い 【黒猫館の殺人】
評価:3
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■ヒトコト感想
館シリーズとして期待感は高まっていく。今回はどのようにして驚かせてくれるのかと。事件を克明に描いた手記の存在と、その手記を手にする記憶をなくした男。明らかに記憶をなくした鮎田に何かありそうな雰囲気のまま進んでいく本作。リアルタイムに起きた事件というのではなく、手記を読んで事件を後追いする感じなので、緊迫感はない。そのかわり、事件の関係者のその後を追うことができる。事件としての衝撃は少いが、黒猫館のトリックは誰も思いつかないものだろう。まさか、そのオチだとは思わなかった。手記の中を注意深く読むことで、答えに気付くという流れだが、想定できるトリックではない。ただ、トリックの衝撃がそのまま物語の面白さに繋がるかは微妙だ。それはトリック自体が事件と密接な関わりがあるわけではないからだろう。
■ストーリー
6つめの「館」への御招待──自分が何者なのか調べてほしい。推理作家鹿谷門実に会いたいと手紙を送ってきた老人はそう訴えた。手がかりとして渡された「手記」には彼が遭遇した奇怪な殺人事件が綴られていた。しかも事件が起きたその屋敷とはあの建築家中村青司の手になるものだった。惨劇に潜む真相は。
■感想
このシリーズは、ある程度タイトルからトリックを予測したりもする。本作は”黒猫”というトリックとは到底結びつかないようなタイトルなので、いったいどんな仕掛けがあるのか楽しみながら読んだ。いつもどおり、中村青司の作った黒猫館。手記に記された事件と、記憶をなくした男。いかにもこの記憶をなくした鮎田という男が怪しいように思わせながら、物語は進んでいく。このシリーズは予想外のトリックを使ってくるので、自分なりにトリックを想像しながら読んだが、なにひとつ当たらなかった。
トリックの奇抜さはさすがだろう。黒猫館からそのようなトリックが導きだされるとは思わなかった。しかし、手記に記された事件の決定的な解決とはならず、トリックとしては刺激的だが、それが物語りに大きな意味を与えているようには思えなかった。中村青司という変人が作った衝撃的な館という意味では、おそらくシリーズいちかもしれないが、それと事件の繋がりが希薄なので、爽快感がない。まんまと騙されたという、うれしい憤りがない。特殊なトリックだとは思うが、事件の根本原因ではないので、どうしても物語りに深みを感じない。
本作は、事件は事件、黒猫館は黒猫館とわけて考えた方が良いのかもしれない。鮎田の記憶を取り戻す作業と、事件とがあまり関係があるように思えず、トリックが事件に大きく影響を与えたかというとそうではない。残された手記を懇切丁寧に読み解けば、その中に隠されたわずかなヒントから、黒猫館の秘密を暴きだせるかもしれないが、そんな猛者はほとんどいないだろう。館というと、常に思い描くイメージを逆手にとり、変人が作り出したとんでもない館の奇妙さを体験すべきだろう。
事件の不可解さと館のトリックの繋がりが弱いのが、本作の特徴だろう。
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