2011.1.17 不安感がつきまとうゲーム 【クリムゾンの迷宮】
評価:3
貴志祐介ランキング
■ヒトコト感想
目的のわからないゲームの恐ろしさ。携帯ゲームを使いながら、わけのわからないサバイバルに突入する本作。ゲーム世代にはかなり引き込まれる展開だろう。何の説明もなく、理由のわからないルールと、奇妙なアイテムの数々。いくつかのチームにわかれ、それぞれがゲームに役立つと思うものを選び取る。藤木が情報を選んだあたりから、物語は加速していく。アイテムの重要度や食料を選んだチームに近づくなという警告など、興味を惹かれる要素は多数ある。ただのサバイバルではなく、後半にはとんでもないことが起こる。まるでゲームの中にいるような臨場感と、サバイバル生活の中で迫りくる恐怖。目的がはっきりしないだけに、常に不安感がつきまとったまま読むことになる。
■ストーリー
藤木はこの世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を覆う、深紅色の奇岩の連なり。ここはどこだ?傍ら携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」
■感想
目が覚めると一面深紅色の大地。そんな中で目的もわからぬまま、携帯ゲームの指示に従いサバイバル生活を続けていく。冒頭からゼロサムゲームを匂わせており、最終的には人間同士の争いになるであろう雰囲気は十分にでていた。そうなったとき、何が一番必要なのか。序盤に必要なものを選ぶ部分があり、そこで情報を選んだ主人公チーム。このあたりから急激に面白さは増していく。食料やサバイバル道具、そして武器など様々なアイテムの中で、情報を得たチームのみアイテムの有効な使い方が説明される。スリリングな展開を増幅させている。
単純にチェックポイントを通過していくだけのゲームではない。野生生物から身を守りながら食料を調達し、他のチームとの駆け引きも必要となる。さらには激しい飢餓感の結果、とんでもない行動にでるチームも…。いつの間にかゲームが狩りへと変貌し、追うものと追われるものの駆け引きが始まる。ゲームの目的の曖昧さと、はっきりとゴールの条件が示されないため、結末がどうなるのかまったく予想がつかない。しかし、迫りくる恐怖感というのはかなり強い。
ゲームを主催した組織の巨大さも恐怖を増大させているが、それよりも人が生き残るためにはどんな行動にでるのか。人の本性があらわとなり、極限に達したとき人はどうなるのかという恐怖が襲ってくる。作中ではゲームブックとダブらせてはいるが、本作の流れをそのままゲームにしても相当楽しめることだろう。制限された状況のなか、少ない情報をたよりに知恵と勇気を使い生き残る。ラストにはそれなりの答えが示されているが、これがさらに恐怖感をあおる。人の欲望と信じられない状況に恐ろしくなる。
非現実的なゲームではあるが、このスリリングなストーリーはすばらしい。
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