暗闇坂の人喰いの木  


 2013.5.8      シリーズ随一の恐怖感 【暗闇坂の人喰いの木】

                      評価:3
島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

樹齢二千年の楠。そこで発生する恐ろしい事件。人喰いの木の伝説と、発生した事件を結びつける。長大な物語の中で、残酷な伝説が強烈に恐ろしい。いつものごとく御手洗だけがすべてを知りつくしているような流れとなる。お決まりのパターンなのかもしれないが、人喰いの木にまつわるエピソードが恐ろしすぎる。極めつけは、すべての黒幕である存在と、その異常さだ。

巨大な楠に何かしらの秘密があるというのは薄々感じられたが、想像以上に残酷で恐ろしい出来事がまっていた。事件のトリックについては、多少アクロバティックな部分はあるにせよ、そこまで異常ではない。ひとりの異常な人間が引き起こした出来事にしては、あまりに強烈すぎる。

■ストーリー

名探偵御手洗潔が樹令二千年の怪木に挑戦!さらし首の名所の暗闇坂に立つ樹齢二千年の大楠が人間を次々に喰ベる?人を狂気に駆りたてるこの巨木の謎に名探偵御手洗潔が挑む。

■感想
いつものように御手洗が鮮やかに事件を解決するのだが、そこにはあまり感動や衝撃はない。あるのは、事件の元凶となる人物の、隠された異常性だ。樹齢二千年の巨大な楠の周りで奇妙な殺人事件が起こる。御手洗が過去にさかのぼり人喰いの伝説のある楠を調べるのだが…。

楠と、それにまつわる異常な事件。そして、次々と小出しにされる身の毛もよだつような出来事。御手洗が調査する過程で登場する、本に走り書きされたメモが恐ろしすぎる。頭の中で想像することさえ、はばかられるような内容だ。

物語は事件が連続して発生することから、より不思議さを増している。事件の犯人については、それほど大きなインパクトはない。トリックについてもかなり大掛かりな面を除けば、特別な印象はない。ただ、事件を起こすに至った経緯やその原因が、かなり衝撃的だ。

怪しげな人形の設計図や、屋敷に仕掛けられたオルゴールの秘密など、いつものごとく、とんでもない推理力なのだが、それらすべてがかすんでしまうほど、恐ろしく異常な性格の持ち主によって、すべてを恐怖に塗り替えている。

レオナが本作で初登場し、この後、いくつかの物語に再登場してくるのだが、レオナと御手洗のやりとりも面白さのポイントかもしれない。陰惨な出来事の前に、高慢なレオナが御手洗にやり込められるシーンというのは、妙に心がすっきりとした。

御手洗の人間的に足りない部分が、本作ではあまり見えてこない。思いやりにあふれ、事件をただ解き明かすだけでなく、周りの関係者のことを考えた上での行動を御手洗がとるとは、今までの御手洗のキャラクターからは想像できない意外さだ。

恐ろしさでいえば、シリーズ随一かもしれない。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp