こうばしい日々  


 2011.11.14  まるで海外小説の翻訳だ 【こうばしい日々】

                      評価:3
■ヒトコト感想
アメリカ育ちの日本人、大介の日常を描く「こうばしい日々」と、結婚した姉の元彼氏に恋するみのりの物語である「綿菓子」。どちらも歳のはなれた姉がいるという状況での物語だ。特徴的なのは、アメリカ生活を描いた「こうばしい日々」では、まるで海外小説を翻訳したような文章になっているということだ。作中に登場する日常がアメリカンなのは当然だが、言葉のチョイスや、言い回しまでもが、なぜかアメリカナイズされている。そのため、やけに新鮮で、奇妙な面白さがあった。逆に「綿菓子」はごくオーソドックスな恋に恋する少女の物語となっている。特別な事件が起きるわけではないが、日米のちょっとした日常の楽しさというのが、作品から伝わってくる。

■ストーリー

ウィルミントンの町に秋がきて、僕は11歳になった。映画も野球も好きだけど、一番気になるのはガールフレンドのジルのことなんだ…。アメリカ育ちの大介の日常を鮮やかに綴った代表作「こうばしい日々」。結婚した姉のかつてのボーイフレンドに恋するみのりの、甘く切ない恋物語「綿菓子」。大人が失くした純粋な心を教えてくれる、素敵なボーイズ&ガールズを描く中編二編。

■感想
日本人だが生まれたときからアメリカで生活する大介。当然だが、その生活様式はアメリカ式だ。作者はあえてこのような文体にしたのだろう。作中に登場する数々のアイテムと、まるで翻訳したような文章によりアメリカ度が高まっている。メジャーが好きで、巨大なアイスクリームを食し、イケてるガールフレンドがいる。友達として、日本かぶれの変な青年がいたり、姉がボーイフレンドに対してきつくあたるなど、日常のなんてことない場面が、まさにこれぞアメリカだという感じで描かれている。主人公が日本人であっても、そう思わせないパワーがある。

特別な出来事が起こるわけではない。父親が寡黙なのと、日本人でありながら、アメリカ人風を気取る姉や、日本人会の奥様方に嫌気がさしている大介の日常を描いているだけだ。おそらく姉との関係がポイントなのだろうが、どちらかといえば、アメリカでの自由奔放な生活の方ばかり気になってしまう。頭の中で思い浮かべるのは、日本人の小学生がエディーマーフィばりに大げさなジェスチャーで姉と口喧嘩をし、巨大で甘そうなアイスクリームをおいしそうに食べる大介の姿だ。

「こうばしい日々」に対して「綿菓子」は連作短編だが、ものすごく日本的だと感じた。「こうばしい日々」があったからよけいにそう感じるのだろうが、みのりの小さいながらも感じる奥ゆかしさというのは、日本の和の心に通じるものなのかもしれない。その他にも、姉の結婚相手の男や、元彼氏など、すべてが日本人としての礼儀や、自分のことをあまり主張しない雰囲気を感じた。すべてが平和で、みのりの心の中での怒りがすべてサラリと流されるようなそんな雰囲気すらある。

二つの物語は共通点もあるが、逆に違う部分の方が目立つように感じられた。




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