光媒の花  


 2012.2.12  微妙なつながりの連作短編集 【光媒の花】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

連作短編集とでも言うのだろうか。はっきりとした繋がりが分かるものもあれば、前の短編で登場した人物が、次の短編で主役となるだけの短編もある。明確な繋がりがある作品は、印象深い。前の短編での行動に対する意味が、のちの短編で判明する。なぜ?という疑問がつきまとう作品が多く、ストレスが溜まった状態のまま、ぱたりと物語りが終わるパターンもある。そんなときは、次の短編で物語が補完されていると、気持ちがすっきりとし、物語全体に重みがましたような気がした。ほぼすべての短編が不幸な話をベースとしており、全体的に陰鬱な雰囲気となる。読み終わると、心の隅っこに暗い気持ちを抱えたまま、なんだか気分的に落ち込んだ状態となってしまう。

■ストーリー

印章店を細々と営み、認知症の母と二人、静かな生活を送る中年男性。ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く……。三十年前、父が自殺したあの日、母は何を見たのだろうか?(隠れ鬼)/共働きの両親が帰ってくるまでの間、内緒で河原に出かけ、虫捕りをするのが楽しみの小学生の兄妹は、ある恐怖からホームレス殺害に手を染めてしまう。(虫送り)/20年前、淡い思いを通い合わせた同級生の少女は、悲しい嘘をつき続けていた。彼女を覆う非情な現実、救えなかった無力な自分に絶望し、「世界を閉じ込めて」生きるホームレスの男。

■感想
「隠れ鬼」は作者の得意パターンなのだろう。ミステリーとして、読者にはあるひとつの結末を連想させつつ、最後に別の答えを用意している。母親がボケ始め、思い出を絵にする場面では、なんともせつなくなる。そこに隠された真実のことを思うと…。ただ、読者のその思いも、結末間近で大きく変わってくる。誰もが人のために考えて行動していた。すべての真実を読者は頭の中で想像するだろう。すべてが明らかとなっても、決して明るい気持ちにはなれない。作者らしい微妙な後味をともなう作品だ。

「虫送り」は、衝撃的というか気分の良い作品ではない。幼い兄弟がホームレス殺害へと手を染めてしまう。そのきっかけや、その後の証拠隠滅のような行動まで、きりきりと胃がいたむような展開かもしれない。兄弟たちと重要な関わりのある、一人のホームレス。このホームレスの存在が、物語を複雑にしている。その後の短編にも登場するこのホームレスは、その思いを含め、「虫送り」だけを読んでもしっくりこないだろう。その後の短編も含めてひとつの作品といっていいかもしれない。

すべての短編に登場する主役たちは、どこか心を硬く閉ざしたような雰囲気がある。作者の物語は、ほぼそんなトーンで、明るく楽しい雰囲気ではない。心にしこりを抱え込み、長年晴れない悩みをじっくりと育てつつ、後悔の気持ちにさいなまれる。「風媒花」だけは、最後になんとなく前向きな気分になれたが、それも長い間の軋轢が正常に戻ったという程度のものだ。明確な原因があり、はっきりと辛く苦しいわけではない。なんとなく気分が落ち込み、暗い気持ちのままモヤモヤを抱えて日々を過ごす。そんな心境かもしれない。

読み終わっても、すっきりとした気分を味わうことは難しいだろう。




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