こんな話を聞いた  


 2013.3.12    アイデアをテクニックでカバー 【こんな話を聞いた】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

「こんな話を聞いた」で始まる短編集。いくつか印象深い作品もあるが、なんとなく、過去の作品と似たエピソードだと感じたりもする。特に「鴨狩り」などは、鴨を手なずけ、ほかの鴨をおびき寄せて、網で一網打尽にする。そのエピソードはどこかで読んだ。全体の構成としても「鴨狩り」は、非常に過去の作品とよく似ている。まぁ、多数の作品を発表している作者だけに、内容がかぶるのはしょうがないのだろう。アイデアが枯渇するのは避けられない事実だが、それを感じさせない文章のテクニックがすばらしい。短編の最初に、こんな話を聞いた、で始まるエピソードとその後の本編のつながりを感じながら読むと、より楽しめることだろう。

■ストーリー

体調不良を押して、早世した知人の葬式に出かけた男が出会った案内人の正体は――「案内人」。一人で歩く夜道、背後から聞えた息遣いのような音の正体は――「靴が鳴る」。さりげない日常の描写から、思わず背中をゾクリとさせ、あるいは口元をニヤリと歪ませる思いもかけない結末が導かれる18話。すべて「こんな話を聞いた」で始まる、アトーダ・マジック全開の短編集。『風の組曲』改題。

■感想
「つもり貯金」は、予想していたが、”つもり”を逆手にとった面白さがある。ある男は、つもり貯金を続けていた叔母の遺産があると聞かされた。男は倹約家の叔母のことだからと期待するのだが…。つもり貯金は、何かを買ったつもりで貯金する、結局は我慢する方法なのだが、叔母の”つもり”が面白い。男は遺産が転がり込むことに、もろ手を挙げて喜ぶのではない。人の不幸で喜ぶなんて、という思いがある。そんな男も、いざ、遺産の額を弁護士から知らされると…。なんだかこの右往左往する心の変化が面白い。

「捜しもの考」は、構成がたくみですばらしい。肝心なときに捜し物が見つからず、なんでもないときに捜し物がポッとでてくる経験ばかりする男がいた。男は、病院へ行くにも大事な薬を忘れるのだが、検査は無事異常なしだった…。大事なときに捜し物が見つからないというのはよくわかる。それがあらゆる場面に当てはまるというのが、想像できなかった。捜し物は必ずしも本人にとって大事なものばかりではない。本来なくても良い、排除しなければならない物も見つからない。確かに、捜し物という意味では同じなのかもしれない。

「猫婆さん」は、オチまで描かず、その先を連想させる怖さがある。男は少年時代に、猫に餌をやるお婆さんを見た。が、お婆さんが消えたあと、多数の猫の死体があった。成長し大人となった男は、新宿でお婆さんを見たのだが…。お婆さんが猫を本当に毒殺したかは定かではない。作中では確信はないまでも、そうだろうという流れになっている。そのまま、現代の新宿で、ホームレスに弁当を配るお婆さんの姿があった。単純に男の想像でしかない。しかし、あえてオチを書かないことによって、読者はどうとでも想像できてしまう。この絶妙なぼやかし加減が作者のうまさだ。

似たような作品だと感じるかもしれないが、短編としてサラリと楽しめる要素が詰まっている。




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