恋文の技術  


 2011.6.23  愛すべきモテない男 【恋文の技術】

                      評価:3
森見登美彦おすすめランキング

■ヒトコト感想

書簡形式の小説ではあるが、いつもの森見作品のキャラクターが生き生きと暴れまわってる。主人公である守田からの手紙のみで表現されているので、相手からどんな返事がきたかは想像するしかない。ただ、とんでもなく面白いやりとりがあったのはかんたんに想像がつく。遠く離れた実験所で、ひたすら手紙を書く。その姿を想像すると、恐ろしさすら、わいてくるが、中身は大違いだ。おっぱいバンザイや、濃厚な妄想の数々。そして、女子にはモテない。このあたりは、いつもどおりなので、安心できて面白い。恋文を書こうか書くまいか悩みつつ、結局、人の恋を成就させながら、自分の恋はおろそかになる。相変わらずの京都近辺での出来事もあいまって、作者の作品はすべてリンクしているような気がしてくる。

■ストーリー

京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊を慰めるべく、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。

■感想
守田が様々な人に手紙を送りつける。相手からの返信は読むことができず、ひたすら守田からの手紙ばかり。守田が書く手紙の内容から相手がどんな返事を書いてきたかを想像するのが面白い。強気でいったかと思うと、次の手紙では土下座する勢いで謝罪の手紙をつづっている。恋文の技術を手に入れるため、作者自身を登場させたりと、かなりバラエティに富んでいる。その結果、結局、愛だ恋だという話よりも、守田近辺と、大学院にまつわる情景が出来上がっている。本作を読んでいると、辛いながらも、それなりに楽しそうな青春物語に思えてくるから不思議だ。

友達が恋に悩み、ストーカーまがいの行動をし、それをいさめながら、アドバイスする。その結果、友が恋を成就させたことにイラ立ちを見せる。ただ守田からの手紙を読んでいるだけなのに、すべてが頭に思い浮かんでくる。田舎の実験所でさみしくクラゲの生態を研究するモテない男。手紙だけが唯一の気晴らしのように、思いのたけを手紙に書きなぐる。大塚さんとの戦いは秀逸で、手紙のテンションが変わっていくのが強烈に面白い。この守田というキャラクターは、森見作品の中ではありがちかもしれないが、愛すべきモテない男として、人気を確立するのではないだろうか。

恋文の技術というタイトルから、恋愛ものかと思われがちだが、正反対だ。守田の近辺で巻き起こる、守田がらみの面白おかしい現象を、守田目線で手紙としてしたためている。必要以上におっぱいにこだわり、淡い恋心を描く女性に醜態をさらす。はたして、この守田という男がどういった容姿なのかは、作中には描かれていない。その他の人物たちは、マシマロ風や、黒髪の乙女などの情報はある。守田がモテない駄目な男だということはわかるが、愛すべきダメ男のような気がしてならない。

作者の定番キャラクターだが、飽きないのが不思議だ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp