奇想、天を動かす  


 2013.1.25    奇妙な事件が山盛り 【奇想、天を動かす】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

消費税が導入された当時の喧騒をそのままミステリーの一部とした作品。消費税に慣れていないからこそ、消費税が原因として事件が起こる。今読むと、違和感をもつが、消費税がスタートした当時では受け入れられたのだろう。消費税の部分よりも、昭和の時代では、刑事が冤罪をでっち上げていたことや、作中に登場する奇異な小説の方がインパクトがある。作中の小説はひらがなが多く、支離滅裂な箇所はあるが、妙な存在感と怖さがある。小説そのままの事件が過去に起きており、迷宮入りした謎と登場人物たちの複雑な人間関係。吉敷シリーズとしては、奇妙な恐怖感はずば抜けているかもしれない。消費税殺人の裏に隠された真の動機を、吉敷がいつものしつこさで探っていく。

■ストーリー

浅草で浮浪者風の老人が、消費税12円を請求されたことに腹を立て、店の主婦をナイフで刺殺した。だが老人は氏名すら名乗らず完全黙秘を続けている。この裏には何かがある。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、懸命な捜査の結果、ついに過去数十年に及ぶ巨大な犯罪の構図を突き止めた。

■感想
冒頭登場する奇妙な小説はかなりの衝撃度だ。密室ミステリー的であり、変な恐怖感がある。消費税を払いたくないことが動機としての消費税殺人が発生し、そこから吉敷が動機の不明確さに気付き動き出す。いつものとおり、吉敷のしつこいまでの探求が始まる。容疑者である行川老人の素性を探すあたりから、過去の事件へと繋がるまでがすさまじい。小さなヒントから数珠繋ぎとなり過去の事件の答えまでもたどりついてしまう。パズルのように、ひとつのヒントから答えを導き出す過程は、ドキドキワクワクしながら読むことができた。

行川老人のルーツが分かると、そこから急展開となる。過去の事件が、それをベースとした奇妙な小説との効果もあり、事件自体が非常におどろおどろしいものというイメージが頭の中に映像として浮かび上がった。動き出す轢断死体。何もない場所で突然飛び上がる車両。空中に浮かぶ白い巨人。密閉されたトイレから消え去るピエロの死体。それぞれひとつだけでもミステリーのテーマとなりそうな題材を、すべてひっくるめて、過去のひとつの事件としてあつかっている。全ての謎が解かれたときは、偶然の要素はあるにせよ驚かずにはいられない。

現代の事件の正確な動機を知るために、過去の事件までさかのぼる。吉敷シリーズは、御手洗シリーズと対極に位置している。御手洗があまり動かずあっさりと事件を解決するのに対して、吉敷はしつこいまでに現地やあちこちへ動き回り聞き込みを続ける。この泥臭い部分が、好感をもてるのだが、時にしつこすぎると感じる場合がある。あまりにあっさりしすぎると、作品としての魅力がなくなる。しつこいと感じるか感じないかは、吉敷が調べる事件の奇妙さにかかっているだろう。そういう意味では、本作の吉敷の行動は、他の吉敷シリーズと比べると、あまりしつこさを感じなかった。

事件の奇妙さは、シリーズで群を抜いているだろう。




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