キミトピア  


 2013.9.28     奇抜な部分をそぎ落とした愛物語 【キミトピア】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

いくつか印象深い短編がある。とりたてて何かテーマがあるようには感じない。しいてあげるなら、愛の物語のようにも思える。「やさしナリン」などは、夫の広範囲にわたる「優しさ」に耐えきれなくなった妻が行動を起こすという物語なのだが、結構ショッキングだ。優しければ良い。男は優しい方が良い。世間一般の認識よりも、さらに優しすぎる夫にイラつく妻

作中の夫の行動は、すんなり「優しさ」と受け取れるものではない。過保護を超えた異常な優しさと言えなくもない。「やさしナリン」という抜群のネーミングにインパクトがあり、ホンワカした物語のように思えるが、中身は結構辛辣だ。人に優しくすることに、どんな意味があるのか。意味のある優しさが重要だと気づかされた。

■ストーリー

夫の「優しさ」を耐えられない私(「やさしナリン」)、進路とBITCHで悩む俺(「すっとこどっこいしょ」。)、卑猥な渾名に抗う私(「ンポ先輩」)、“作日の僕”と対峙する僕―(「あまりぼっち」)。出会いと別離のディストピアで個を貫こうともがく七人の「私」たちが真実のYOUTOPIAを求めて歩く小説

■感想
作者の作品らしくない。奇想天外、ぶっ飛んだ設定で、常識を覆す。そんなことを期待した人はがっかりするだろう。ごくまっとうな短編集になっている。奇抜な部分がそぎ落とされた代わりに、日常の中に作者のエッセンスが組み込まれている。そのため、ちょっとだけぶっ飛んだ設定だ。

相変わらず調布や福井の話が盛りだくさんだ。ちょっとした愛や恋については、なんだか変にジーンときてしまう。大人がイメージする恋愛小説とは一線を画するが、このパターンもありかもしれない。「すっとこどっこいしょ」なんてのは、内容に反してちょっと感動してしまった。

「ンポ先輩」は、思春期の女子のむずかしさと、女のイジメの恐ろしさを感じた作品だ。というか、作中の女たちが論理的にまっとうな言葉をマシンガンのようにつむぎだす。それはまさに、女が男に対して口げんかでは絶対に負けないと勢いこんで話すシーンのようだ。

正しいことを言っているのだろうが、そこまで逃げ道をなくされると、言われた方はたまらない。思春期の微妙な時期だけに、相手に負けたくないという感覚なのか、それとも自然な現象なのか。正論は難しいと感じた作品だ。

「あまりぼっち」は、作者らしさが一番でている作品だろう。毎日、昨日の僕がやってくる。なぜ、どうやって?SF的な面白さもさることながら、タイムパラドクスを吹き飛ばすストーリーがすばらしい。昨日の僕は、何を考え行動するのか。

昨日の僕の存在が、現在の僕にどのような影響を与えるのか。昨日と今日と時系列は違うが、同じ「僕」であることに違いはない。それが、なぜ違った考え方で行動するのか。脳をフル稼働し物語を追いかけていかないと置いてけぼりをくうかもしれない。不思議なSF作品だ。

本作を読んで、作者のテイストが変わったとは思えない。相変わらずのぶっ飛んだ設定の片りんは残っている。




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