奇面館の殺人  


 2012.8.17   何かがあると思わせる仮面 【奇面館の殺人】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

館シリーズの九作目。いつものごとく、奇妙な館が舞台となる。今回は、館に招待された者たちが仮面をかぶり顔を隠すことになる。お決まりどおり殺人事件が起こり、大雪のため外部と連絡がとれないまま孤立した状態となる。館シリーズの定番としての流れはいつものとおり。首から上が存在しない死体と、全員が施錠された仮面をかぶらされた状況。否が応でも考えてしまうのは、人の入れ替わりだ。当然、そのあたりを連想させる記述もあり、奇妙な仮面をかぶるということを存分にアピールしている。館シリーズを読みなれていればいるほど、深読みをしてしまうだろう。そんな読者の深読みをあざ笑うかのように、物語は意外な結末をむかえることになる。

■ストーリー

奇面館主人・影山逸史に招かれた六人の男たち。館に伝わる奇妙な仮面で全員が“顔”を隠すなか、妖しく揺らめく“もう一人の自分”の影…。季節外れの吹雪で館が孤立したとき、“奇面の間”に転がった凄惨な死体は何を語る?前代未聞の異様な状況下、名探偵・鹿谷門実が圧巻の推理を展開する。

■感想
仮面にこだわる館の主人。「もう一人の自分探し」という奇妙な依頼から集められた者たち。館の主人と会う場合には、仮面をかぶらなければならない。いつものごとく、奇妙すぎる状況を作り上げ、その中で奇妙な事件が発生し、謎を解き明かす。今回は招待客の一人として鹿谷門実がいるために、事件発生直後から推理は始まっている。事件が起こる前から、館の奇妙な儀式と、中村青司が設計した館ということで、物語は自然とおどろおどろしい雰囲気へ流れていく。いつもの狂言回し役である江南がいないことで、まどろっこしさは緩和されている。

事件が発生し、招待客たちはいつのまにか施錠され取り外せない仮面をかぶらされている。誰が誰なのかは、自己申告でしかない。殺された人物は顔が存在しない。そんな状況であれば、誰もが考えるのは、人の入れ替わりだ。本作でもその推理は早い段階で披露される。仮面の中は本当にその人物なのか。確証がないまま物語は進んでいく。おそらく館シリーズを読みなれている人であれば、なんらかの深読みをしてしまうだろう。作者はそれを予見するように、鹿谷に”意匠的”ではないと答えさせる。つまり、様々な状況に意味はないと告げる。

館シリーズとなれば、何かしら大きなトリックやすべてが考えられた出来事のように思ってしまう。ちょっとしたことであっても、事件には重大な要素となる。本作でも、その流れに変わりがないのだが、計画性はないようだ。つまり、ミステリーの定番として、最初からすべて考えられて作られた計画というオチで読者を驚かせるのだろうが、本作では、あえてその手法ではなく、偶然だとか、不幸なタイミングという、計画にはないということを強調している。今までの館シリーズからすると、意外な展開なのかもしれない。

館シリーズというベースがあるからこそ、活きる作品かもしれない。




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