危険な童話  


 2013.2.25     心地よくなる怒り 【危険な童話】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

奇妙な余韻を残す短編集。印象的なのは「女に向かない仕事」だ。はずみで結婚した妻に対して夫が思うこと。この結婚は失敗なのではないか?と思う男。家事はいっさいやらないくせに見栄っ張りな妻。夫はとうとうある行動にでる…。オチはそれなりに想像できるのだが、そこに至るまでの過程がすばらしい。よく考えずに結婚したことに後悔する男。妻と初めて出合ったその瞬間だけ、妻は美しかった。今は見る影もない。家事をしない妻と、なんとかしようと考える夫。見栄っ張りな妻が、夫に家事をやらせていると近所に知られることを恐れ、試行錯誤する。そんな二人のやりとりが面白い。男からすると、なんて身勝手な妻だと怒りがわいてくる。が、オチがなんとなく想像できるだけに、その怒りすら心地良くなる

■ストーリー

「おばちゃまの目はどうして、そんなに怖く光っているの?」「それはお前を殺すためだよ」…不意に暗転するメルヘンの世界。人間心理の狂暴な衝動を描く表題作。同級会で40年ぶりに会った男が1500万円もの大金をポンと貸してくれるというのだが、その真意は?―「茜色の空」。怠け者の女と結婚した男が女のためにした最後の仕事とは?―「女に向かない仕事」。

■感想
「法則のある死体たち」は、恐ろしさの中に、最後にほっとした安心感がある。ある男が、朝から様々な生物の死に遭遇する。それも、進化の過程を追うように死は金魚から蛇、鳥、猫、猿と人間に近づいていく。男は嫌な予感を感じ…。日常にあたりまえに存在する生物の死。それを意識し、なんらか関連付けて考えると、どうとでもとらえることができるだろう。事実として死が人間に近づいていくという恐怖と、その死が自分の家族に降りかからないかと心配する心境。身勝手な考え方ではあるが、ちょっとした行動の違いによって幸せと不幸は隣り合わせなのだと思わせられる作品だ。

「茜色の空」は、美しい友情物語かと思いきや、最後にはやはり…、と思わせる意外性がある。幼い頃に親友でいようと誓った相手がいた。お互い、相手が困ったときはどこにいても駆けつけると約束する。そんな二人が成長し、同窓会で出会うのだが…。子どものころの約束を覚えており、窮地に陥った男を助けるため、大金を用意する。なんとも美しい友情かと思いきや、やはりそこには裏があった。子どもの頃に誓った約束というのは、大人になると綺麗さっぱり忘れるのはよくあることだ。美しい友情物語では済まされない、大人だからこその利害関係の一致が最後にしっかりと表現されている。

「蛇」は、ネクタイが蛇に見えるということをそのまま状況として利用した作品だ。ある女と体の関係を結んだが、女は近いうちに死ぬという。2月22日だけは、他の女と寝ないでと頼まれる男。半信半疑ながら約束をするのだが…。男が女の遺言を忘れ、他の女と関係を結んでいるときに、蛇がネクタイに見える。単純な物語なのだが、そこにあるのは奇妙な状況を利用しているというだけだ。女の恨みが不可解な状況を引き起こすというのはよくあるパターンだ。その王道をそのまま利用しつつ、男女間の恨みの怖さを表現している。

短編のパターンは様々だが、それなりに印象に残る作品集だ。




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