風物語  


 2012.7.24   子どもにはわからない趣 【風物語】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

大人な雰囲気ただよう短編集だ。風物語というタイトルどおり、風のようにフワリとした読み応えのものが多い。過去の出来事を思い出しながら、現在を思う。ふとした時に感じる何かが、物語としての面白さになっている。何か明確なオチがあるわけではない。それでも、人生の様々な情景を味わえるようで趣深い。人生経験が豊富な作者だからこそ描けた物語だろう。相変わらず男女の付き合いには、濃厚な性描写つきなのはいつものとおり。それぞれの物語には、ひとつとして同じような雰囲気の作品はない。少年時代の淡い思いを、今、大人になって思い出す。もしかしたら、本作の物語のどれかひとつに、強烈に感情移入できるかもしれない。最後までゆるりとした雰囲気がくずれることのない作品だ。

■ストーリー

中学時代、ほのかな恋ごころを燃やした美少女がいた。都会から田舎の中学へ転校し、再び都会に去った少女に対して、少年は1度だけ直接話しかける機会があったが、結局何も話せない。そしていま、30年ぶりの同窓会で男は女にそれを語ってみると…。時は風、風は人生―さまざまな人生の哀歓を巧みに描き出す大人の寓話集。

■感想
「30年」は、30年ぶりの同窓会で出会う男女の話だ。よくあるパターンで、特別なオチはない。物語として何が特徴なのかと問われると、答えに困るたぐいの作品だ。昔恋した女性と、すれ違いがありながら、どこかで縁があったのかもしれない。かすかな期待と、現実を見極めながら、物語はやんわりと終わっていく。ミステリアスな展開があるわけではないが、妙にノスタルジックな気分にさせる作品だ。特に30代、40代の人が読めば、よりそう感じるだろう。逆に高校生や中学生が読んだとしたら、何が面白いのかまったくわからないだろう。

「危険な絵本」は、伏線からオチまでが、やんわりとした中にも秀逸でキラリと光るものがある。小学生の娘に、自分が付き合う男から絵本がプレゼントされる。その絵本は2冊あり…。物語は女がどのような手段で生活費を得ているかが、じっくりと描かれている。男にたよる生活をしつつ、娘を育てる。絵本の中には経済をわかりやすく漫画にした絵本がある。この絵本がポイントとなり、物語としての最後のセリフにピリリとした刺激を与えている。なんてことないかもしれないが、最後のセリフがすばらしいと、作品全体が締まるような気がした。

本作の短編は、やんわりとした雰囲気と共に、悲しみを備えた作品が多い。大人としての悲しみ。子供的な、何かができないから悲しいというのではない。そうなるのはしょうがないとわかっていながら、頭では理解しているが、悲しみがにじみでてしまう、そんな雰囲気だ。悲しいからといって、それをおおっぴらにできないのも大人の辛いところだ。物語の中で感じるのは、大人としての作法だとか、立ち居ふる舞いみたいなものすらうっすらと感じてしまう。直接的な表現はないが、大人の見栄えというか、雰囲気というのは作品からただよってくる。

大人の短編集という感じだ。




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