カラスの親指  


 2011.7.9  爆裂するコンゲーム小説 【カラスの親指】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

コンゲーム的な流れになるだろうとは、早い段階から想像できた。詐欺師の中年二人組みが、おかしな同居人を増やしていき、最終的には自分たちの共通の敵であるヤクザをはめようとする。コンゲームのための事前準備は、しつこいほど伏線として描かれている。それぞれの詐欺の腕前や、特技など、奇妙な五人組が、ヤクザたちに挑み、まんまとだし抜いて金を奪いとるまでに、二転三転ある。それだけでも、かなりハラハラドキドキするのだが、その後、お決まりどおりヤクザたちの大逆転がまっている。まさにコンゲームだ、と思った瞬間、もっと大きな根本を覆すような仕掛けがまっている。まさかここまで大掛かりなことをやりきるとは思わなかった。誰もが予想できないコンゲームだ。

■ストーリー

“詐欺”を生業としている、したたかな中年二人組。ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。戸惑う二人。やがて同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、彼らが企てた大計画とは。

■感想
コンゲームの醍醐味は、ヤクザなり力をもつ者に対して、騙しのテクニックで相手をだし抜く痛快さにある。本作もそのセオリーどおり、最初は二人のしょぼくれた中年詐欺師を描く。その二人が、ヤクザにひどい目にあわされてきたという描写がある。ヤクザに対しての強烈な恨み節と、二人の寂しい境遇で惨めさを強調している。その後、おかしな同居人が増え、それぞれに秘密をもちながら、ヤクザに対して復讐を誓う。このあたりでキャラクターそれぞれの特徴ができあがり、役割分担もしっかりとされている。

ヤクザに対しての恨みや怒りが高まり、復讐のための策略を練る。それほど簡単にことが進むとは思えず、順調にいっている間も、何か落とし穴があるのではないかという思いで読んでいた。それらしい伏線が事前に用意されていたので、どうしても余計な勘ぐりを入れてしまう。ヤクザをまんまと罠にはめ、幸運にも目的を達成できたかと思いきや、そこで大きな落とし穴がある。正直ここまではある程度予想できていた。ヤクザを騙す作戦中にも、ゴタゴタがありドキドキしたが、ヤクザからの逆襲はもはや規定路線だろうと思った。これがコンゲームの宿命だ。

なんだかんだとありながら、ヤクザに逆襲されたとしても問題なく終わったので、これで終わりかと思いきや、そうではなかった。まさか、最後の最後にとんでもない大掛かりな仕掛けがあるとは思わなかった。すべてを根底から覆す仕掛けだ。太陽の周りを地球が回っているのではなく、実は地球の周りを太陽が回っていました、というくらいの壮大な変化だ。さすがにここまでの大どんでん返しは予想できない。最後の仕掛けがなければ平凡なコンゲーム小説で終わっているが、最後の最後に非凡な仕掛けがまっている。

多少強引すぎるような気もするが、驚くことは間違いない。




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